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「……何してんの?」

よく聞き慣れた声。
顔を見なくても、声を聞くだけで誰だかわかってしまう。

「……琴春」
名前を呼ぶと、目を覆っていた掌がそっと離された。
もう涙は出なかった。

「ことはる?」
「……幼馴染」
「あ、前に言ってたコトって、まさかこいつの……」
「俺のこと知ってんの」

へーって感じで琴が呟いた。

「で、こんなとこで何してんの」
「……いや、別に、なんでも」
「じゃあ何で泣いてんだよ」
「……泣いてない!」
「工藤が泣かせたの?」
「違うよ!勝手に私が!」
「Aが?」
「……間違えた、泣いてないけど」
「はー?目と鼻赤くして何言ってんだか」
「うるさい、面談終わったんでしょ、もう帰ろう琴」
「ハイハイ」
「えっ、オイ待て……」

靴を履き替えて琴の手を引っ張って、昇降口を出る。
新一くんの呼び止める声が聞こえたけど、無視する。

いつの間にか土砂降りだった雨は小雨に変わっていて、雲間から太陽の光が僅かに差していた。
この程度なら歩いて帰れる。

歩き出して数分、私も琴も何も言わず沈黙が漂っていた。
きっと、琴は無理矢理問いただすことはせず、私が話し始めるのを待ってる。

昔からそうだった。
琴は昔から、私が泣いたら、もしくは泣きそうになったら、私の目を塞いで何も見せないようにした。
流れた涙を拭うのではなく、そもそも涙を流させなかった。

そして何があったのかは自分からは聞かず、私が話したら黙って聞いて慰めてくれる。

琴春のそういった優しさが、今はひたすらありがたかった。

私と琴春の間に恋愛感情なんてものはなく、あるのは家族愛に似た感情だが、だからこそ信頼しきることができるし、誰より大切に思っている。
そしてそんな私と琴なのだから、隠し事なんて昔からできなかった。

「……琴春の言う通りだった」

琴がちらりと私を見下ろして、また前を見た。

「何が?」
「私が新一くんのこと好きになれてよかったな、って言ってたでしょ」
「ああ、うん、言った気がする」
「その通りだよ」
「……?」
「新一くんのことが好きだよ」
「……」
「よかったかどうかはわからないけど……好きになっちゃったよ、性懲りもなく、また人を好きになっちゃった」

自嘲的な笑みが零れた。
琴は何も言わずに私を見つめる。

「よかっただろ」
「え?」
「工藤を好きになれてよかったって、少なくとも俺は、そう思ってるけど」
「……そうかな」

よかったのだろうか。
こんなにも、心はつらいのに。

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未設定 - 世界一好きになれない夢主。胸糞悪い (2023年3月5日 17時) (レス) @page48 id: 438400fe3d (このIDを非表示/違反報告)
新一君しょうこ(プロフ) - はじめまして(新一君が大好きで名前申し訳ございません)前作のお話もとても大好きで、ありがとうございます胸にぐっときて涙が止まらず新一くんとこれまで悲しい思いをされた夢主様の未来お祈りしてやまないですこれからも応援させて頂いていますありがとうございます (2020年7月6日 13時) (レス) id: 84fa2ad3c6 (このIDを非表示/違反報告)
さち - すごくおもしろいです。後日談も気になりますが、このままでも十分ですよね。次回作も楽しみです。よろしくお願いします。 (2020年7月6日 13時) (レス) id: 45c5a17459 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ああもう!お疲れ様でした!最高でした。途中途中で涙ぐみながらハッピーエンドで幸せいっぱい!夢主ちゃん良かったああ (2020年7月5日 19時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
オトハ - めっちゃ好きです。これからも無理せずに頑張ってください! なぜ高評価は一回しか押せないのだろうか、 (2020年6月15日 17時) (レス) id: ef611ec012 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みやの | 作成日時:2019年12月15日 17時

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