あなたになりたい ページ49
「俺はね、Aちゃんの優しいところも、博識なところも、強く見えて実は弱いところも、言いたいことをはっきり言えるところも、全部が好きだよ」
「……」
「でもね、Aちゃん。工藤くんを好きでいること、やめないで」
「……え?」
「Aちゃんならきっと大丈夫、俺が保証してあげる」
「遥樹くん……」
「バイバイ、Aちゃん」
「遥樹くん……!」
遥樹くんは最後に、元気でね、って言い残して、私の頭を撫でた。
去っていく後ろ姿を見て、ぐううっと、胸が締め付けられる。
うそ。うそだ。
最後に聞いた、遥樹くんの本音。
遥樹くんは、私のことを好きでいてくれた。
でも私は、新一しか見てなかった。
ずうっと、遥樹くんのこと、苦しめてたんだ。
私は新一が好き。
でも新一は、蘭ちゃんが好き。
そばにいるのに見てくれないつらさは、苦しさは、私がいちばんわかってたのに。
私は、気づけなかった。
大切な男友達とかいう言葉も、きっと遥樹くんを苦しめてた。
私の何気ない一言が、はるきくんを。
手先が震える。
なんてことしてたの、わたし。
どうして。どうして気づけなかったの。
遥樹くんの近くにいたのは、私でしょ。
それなのに。
「わたし、ほんとばか……」
やっぱり、私は私がきらい。
また、大切な人を傷つけたんだ。
ぽろぽろと溢れる涙が、アスファルトに落ちる。私はそれを拭うことができなくて、愕然と立ち尽くす。
遠くで、ウグイスが鳴いた。
どこまでも澄み渡る蒼穹。
暖かく包まれるような南風。
どこからか香る沈丁花の匂い。
咲き誇るアネモネとリナリアの花。
道端には、ハナニラが小さく立っていた。
綺麗な家には、キンセンカとミモザアカシアが咲いている。
こんなときに目に入る花々にも、胸を痛める。
その場に蹲って、泣きじゃくる。
遥樹くん。
始業式のあの日、遥樹くんは、どんな思いで私にあんなことを言ったの。
新一を見る私を、どんな目で見てたの。
私が新一のことを話してるとき、どんな思いで聞いてたの。
どうして、こんな最低な私を好きになってくれたの。
聞きたくても、遥樹くんはもういない。
その事実に、また涙が零れた。
新一のこと、好きでいて。
そう言われた。遥樹くんは私のことが好きだったのに、別の人を好きでいてって言った。
きっとそれは。
好きな人の幸せを願ってるから。
ありがとう、遥樹くん。
たくさん苦しめて、ごめんね。
遥樹くんは、どこまでも優しかった。
わたしは、あなたになりたい。
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極・吹雪姫 - ちょっとびっくりしたのが、弟の瑞紀(みずき)と私の「ミズキ」が被ったことだわね。 (2019年5月2日 20時) (レス) id: c4455a25af (このIDを非表示/違反報告)
極・吹雪姫 - ごめんなさい、本当に途中で泣きそうになったわ。「泣く」ですわ。泣いたページ。 (2019年5月2日 20時) (レス) id: c4455a25af (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - こいつらまだ小学生だった…!なんつー濃い恋愛を…!この小説すごく好きです!遥樹くんのちょっとした嫉妬がこぼれて、それを見てとても切なくなる。ヒロインの気持ちはよく理解できるけど、やっぱり遥樹くんがいちばん好きです! (2019年3月11日 10時) (レス) id: 7ac5223945 (このIDを非表示/違反報告)
松野かほ(プロフ) - 遥樹くんの読み方を今初めて知った← (2019年2月13日 15時) (レス) id: 45fd1e6358 (このIDを非表示/違反報告)
みお - この小説好きです!正直言うと新一より遥樹くんの方が好きだったのでくっついて欲しかったなぁって思ってます() (2018年6月8日 19時) (レス) id: 0646f7c2e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みやの | 作成日時:2018年3月1日 22時