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心の奥底に ページ21

まっすぐ家に帰る気になれなくて、寄り道する。公園のベンチに座って天を仰ぐ。
なんだか泣きそうな曇り空。

新一に、妹だって言われたことが、それなりにショックだった。
ああでも、生まれたときから一緒にいて、兄妹のように育てられたんだもん。
妹に見られるのも、当たり前なんだ。

もう、いいや。
もう疲れた。

新一に優しくされて喜んで。
蘭ちゃんと仲良くしてるところを見て、落ち込んで。
新一の言動ひとつひとつに、一喜一憂するのは、もう疲れた。

今の私には、期待して、また絶望の底に突き落とされるほどの精神は、持ち合わせていない。

もう、むり。
好きでいるのが、馬鹿馬鹿しくなってきた。
もういいや。

妹だって、充分素敵な立ち位置じゃない。
兄妹は、絶対に切れることのない縁。
それならそれで、いいじゃない。

どんな形であれ、新一のそばにいれるなら。

なんて考える私は、救いようのないバカ。
捨てきれない心の内。

私の心を跋扈していた新一への恋心は、鋼の箱に閉じ込めて、心の奥底に封印する。
鎖を何重にも巻いて、鍵のない南京錠をたくさんつけて。
この箱を開ける術は、ない。

そうだ。
今日は私と新一の誕生日だ。
祝わなきゃ、妹として。
誕生日が同じなら、双子の兄妹?
もっと特別な感じがする。

頬をつう、と涙が伝った。
私、最近泣いてばっかり。

はは、と笑いがこぼれた。

私、全然強くなれてないじゃない。
口先ばっかり。有言不実行?不言不実行?
ああ、まるでダメな人間。
遠くで犬が吠えた。

決めた。
もう絶対、新一のことで泣かない。
人の前で泣かない。

……泣くなら、ひとりで、誰にも気づかれないところで、泣く。

ぶるりと寒気。
まだ5月。冬と比べて暖かくなったものの、夏はまだまだこない。

夏といえば、新一と喧嘩したなぁ、なんて。
頭に浮かぶのは、また新一のこと。

風邪ひく前に帰らなくちゃ。
お母さんに怒られちゃう。

「A!」

帰ろうとしたところに、私を呼ぶ新いて声が聞こえた。

「……新一、どうしたの?」
「お前、なかなか帰ってこないから、心配になって」

その言葉に、期待しそうにって、私は妹なんだ、って思い直す。大丈夫。

「ごめん、公園に行きたくて」
「公園に?」
「そう」
「ふーん、ほら、帰ろうぜ」
「うん」
「なあ、今日は『最後の事件』でホームズがモリアーティ教授とライヘンバッハの滝に転落した日なんだぜ」
「そうなんだ!」

変わらない新一の優しさが、胸にしみた。

初恋→←妹



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極・吹雪姫 - ちょっとびっくりしたのが、弟の瑞紀(みずき)と私の「ミズキ」が被ったことだわね。 (2019年5月2日 20時) (レス) id: c4455a25af (このIDを非表示/違反報告)
極・吹雪姫 - ごめんなさい、本当に途中で泣きそうになったわ。「泣く」ですわ。泣いたページ。 (2019年5月2日 20時) (レス) id: c4455a25af (このIDを非表示/違反報告)
紅葉(プロフ) - こいつらまだ小学生だった…!なんつー濃い恋愛を…!この小説すごく好きです!遥樹くんのちょっとした嫉妬がこぼれて、それを見てとても切なくなる。ヒロインの気持ちはよく理解できるけど、やっぱり遥樹くんがいちばん好きです! (2019年3月11日 10時) (レス) id: 7ac5223945 (このIDを非表示/違反報告)
松野かほ(プロフ) - 遥樹くんの読み方を今初めて知った← (2019年2月13日 15時) (レス) id: 45fd1e6358 (このIDを非表示/違反報告)
みお - この小説好きです!正直言うと新一より遥樹くんの方が好きだったのでくっついて欲しかったなぁって思ってます() (2018年6月8日 19時) (レス) id: 0646f7c2e0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みやの | 作成日時:2018年3月1日 22時

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