＊ ページ23
「ただいま」
少し遠くから、「おっかえりぃ〜」と緩い声が聞こえる。
電気がついているのは外から見えたから帰ってはいるだろうと思ったけど、こんな美味しそうな匂いがするのは想定外。
「夕ご飯作ってくれたの？」
「うん、金目鯛の煮付け」
「えっ鯛。やったぁ。でもどうしたの、こんな立派な鯛」
「コイツが」
そういっていつも手放さないスマホを見せてくれる。
画面に映るのは真っ黒に日焼けした男性と、大きなマグロ。と思う、多分。魚については詳しくない。
「あぁ、いつもの」
「そうそう。さっき急に来て、貰っちゃった」
にぃっとピースする姿は朝の職員室の彼と被る。
「もう出来るよ。ご飯も炊けてるし、手洗っておいでよ」
「わーい、ありがとね」
私は学校では家庭科担当のA先生だ。
クッキングクラブの顧問もやっていて、今日はそのクラブの日。
そんな日は、彼の方が帰りが早い。
「いつまで真剣に手洗ってんのー」
わぁい、鯛だ鯛だ♪ってウキウキしていたら洗面所に彼のお出まし。
はって気付いてそちらを向くと、へへっと笑った彼は「早くー」と私のまだ濡れた手を引っ張った。
「もう、智」
「早く食べようよA」
……美術担当、大野先生は、私の彼氏、で、同棲をしている人、だ。
「うん、うんまい」
「美味しいね。いつもありがとうございますって言っておいてね」
「ん」
付き合いだしたのはもう何年前だろう。
おそらく、片手の指でギリギリ足りるくらいだ。
家が遠く、高校への通勤がキツイと漏らしていた大野先生が一度だけ、終電を逃したことがあって。
確か、あのいつもの仲のいい５人が飲んでいた時だと思う。
同じ大学出身の櫻井先生……櫻井くんが、「今からAの家に行ってもいい！？いや、行く！すまん！」と大野先生と一緒に、高校近くに住んでいる私の家を訪ねてきたのだ。
ベロンベロンに酔っている大野先生と、一応意識はあるもののすごく眠そうな櫻井くんをしょうがなく出迎え、私はベッド、二人はリビングに雑魚寝をしていたはずだった。
朝、目が覚めたら大野先生は私のベッドの中に居て。
目を見開いた私にぎゅっと抱き着いたと思えば、「んふ、A先生いい匂い」って首筋を吸われたものだから、しばらく彼氏の居なかった私はコロンと大野先生に堕ち……
今、この目の前のふにゃふにゃ男と同棲をするまでに至る。
いや、こう見えて夜は見違えるようにカッコいいのよ、と訂正はしておく。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1288人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
cori(プロフ) - 古川さん» コメントありがとうございます！ええっ、そこまで言っていただけて嬉しいです…！実は私もこの5つの話の中で大野先生の話が一番好きで笑 だから余計嬉しいです！ (2019年8月11日 21時) (
レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
古川(プロフ) - 大野先生の話めっっっちゃ好きです……こういうのが読みたかったんです……私の需要を満たしてくださり本当にありがとうございます(スライディング土下座) (2019年8月11日 1時) (レス) id: ae72d41905 (このIDを非表示/違反報告)
cori(プロフ) - mayuさん» mayuさんありがとうございます(*^_^*)ほんと天邪鬼で手に負えませんね！笑 櫻井先生、もう少しお待ちください！ (2019年7月7日 13時) (レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
mayu(プロフ) - 二宮せんせー、ホントに天の邪鬼なんだから…でもそこがすき！(笑)櫻井先生の長編嬉しいです！楽しみにしています！！(^^) (2019年7月6日 21時) (レス) id: 862aa3f0aa (このIDを非表示/違反報告)
cori(プロフ) - kana59さん» コメントありがとうございます！そう言っていただけるととてもやる気出ます〜！！あとはタイトルさえ決まれば出せるのですが…お待ちください！ (2019年7月6日 0時) (レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：cori
| 作成日時：2019年4月19日 21時
