＊ ページ12
……頭の理解が追いつかない。
「っ、」
圧迫されて息が出来ない。
手で、必死に櫻井の背中を叩いた。
そうすると、少しだけ力が緩まった気がしてその隙を見て櫻井から離れる。
「っ、な、に……」
息が出来ないほど、櫻井に抱きしめられた。
櫻井の白いワイシャツの胸元には、取れかけていた私の口紅がくっきりと転写されていて見るのも恥ずかしい。
櫻井に抱きしめられた事実がそこにある。
そこから動けなくなった私の手首を、櫻井が掴んだ。
キリ、と強く握られて痛いはずなのに、櫻井の視線から逃れられない。
「なぁ、……行くなよ」
「……え？」
「会いに……行くなよ」
櫻井の言っている意味を瞬時に理解したけれど、なぜ櫻井にそんなことを言われないといけないのか到底理解が出来ない。
抱きしめられた意味も、今手首を握られている意味も理解出来ない。
「何で、そんなこと櫻井に」
「無駄にすんな」
「……無駄？」
「無駄に、抱かれに行ってんじゃねーよ」
その言葉は、今までの私を全否定する言葉。
彼を好きになって、彼の何番目かの女になって、ただ抱かれに行く水曜日。
その全てが、無駄な行為だと。
「む、だ……」
「無駄だろ」
「さ、櫻井に何でそんなこと言われなきゃいけないの！？」
無駄な行為だって分かってる。
それでも、好きなの。
何でそれを、ただの同期の櫻井に言われなきゃいけないの。
自分の気持ちがワケが分からなくなって、今まで浴びせたことのないような大声で櫻井を非難した。
「……別に正義感とかじゃねーよ」
「……」
「どうでもいい女がそんなことしてたって、別に何とも思わないから俺」
「え？」
気づきたくなかった。
櫻井の目が、……私が彼を見る目と、同じ目をしている。
「なぁ、会いに行かないでくれ」
「櫻井」
「幸せになってくれるんなら見守りたいと思ってた。でも、それがそうじゃないなら……」
「……」
「ここから出さない。絶対、会いに行かせない」
もう一度、櫻井は私の手首を引っ張り、今度は軽く私の体を抱きしめた。
さっきは一瞬過ぎて感じなかった、櫻井の香りが直接鼻腔をくすぐる。
「やだ、櫻井ちょっと待って」
「……俺にしてよ」
「櫻井……」
「俺が、俺だったら、絶対に……」
この背中に腕を回せば、幸せになる未来が確約されているんだろう。
櫻井の笑顔が脳裏に過ぎる。
少し櫻井の胸を押して、櫻井の顔を見つめる。
「……櫻井、私ね」
Fin
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1096人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
cori(プロフ) - はるさん» ありがとうございます！優しいですよねぇ（涙）帰って潤くん迎えてくれたらそれだけで疲れ吹っ飛びますよね… (2019年12月23日 21時) (
レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - coriさん、潤君のお話今読んで、とっても素敵ー！と１人悶絶してます！いいなぁ、主人公ちゃん…優しい潤くん大好きです。 (2019年12月23日 10時) (レス) id: 6cd0f843d6 (このIDを非表示/違反報告)
cori(プロフ) - mayuさん» mayuさんありがとうございます！優しいですよね…色んな嫌味を言われてるヒロインのことも、もしかしたらそれとなく知ってるのかも…（涙）ウジウジ、分かります…！でも少しでも癒されたのなら良かったです…！ (2019年12月20日 21時) (レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
mayu(プロフ) - 潤くーん！！！優しすぎるーー(//∇//)大好きだーー！！って叫びたくなるくらい！！笑 coriさん、私もまだ色々と乗り越えられなくてウジウジしてます…でも潤くんのお話読んで癒されました！！更新してくれてありがとうございます！！ (2019年12月19日 22時) (レス) id: 862aa3f0aa (このIDを非表示/違反報告)
cori(プロフ) - smilyenjoywindさん» えーっ、ありがとうございます！ちょっと大丈夫かな？って思いながらアップしたので、とても嬉しい…優しさが滲み出てるお話になれてるでしょうか… (2019年12月19日 19時) (レス) id: 25f9095f6a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：cori
| 作成日時：2019年10月5日 11時
