＊１３ ページ13
社長室から出ると、松本くんが「翔さんは……いいんですか」と聞いてきた。
そんな事、分かってる。
それでも、このチャンスを逃してなるものかと思った。
天秤にかけた時に、そっちが下に沈んだということ。
「……ねぇ、松本くん」
「はい」
「このこと、まだ翔には言わないで。私だけじゃなくて、松本くんが選ばれたことも」
「え、でも」
「全部自分で言うから。……言うから」
そういうと松本くんは「分かりました」と言ってくれた。
営業部に戻る。
さっきまで外出していた翔が戻ってきていて、その姿に胸が雑巾を絞ったみたいにぎゅぅってなった。
どうしよう、翔の姿を見ると途端にさっきまでの決意が綻びだす。
「あ、戻ってきた。どこ行ってたんだよ。なぁこれさぁ」
翔は私たちの変化には何も気づかず、書類を見せてきた。
翔にその書類について何かを問われた気がするけど、私の意識は別の方にあって。
「聞いてんのか？」って翔の一言で現実に戻る。
「あ、ごめん。もう一回話して」
「体調悪いの？」
「ううん、違う。ごめんごめん」
「悪いなら早退しろよ？」
そう言ってみんなの前なのに、おでこに手を寄せるからつい体を逸らしてしまう。
「え」
「も、翔ばかみんな居るし」
「……あぁ」
変に思われたかな。
でも、でも、でもね翔。
……きっと私は、もう戻れない。
そこから何日か、脳内にアメリカのことと翔が交互に現れる毎日を過ごした。
もう社長に返事をしたから、アメリカに行くことは決まっているのに。
それでも、もし３年なら翔は待っててくれるかも、でも５年以上ならその時は別れた方が、って。
……３年だろうが５年以上だろうが、ちゃんと翔には話をしないといけない。
翔は何て言うかな。
何も相談せずに決めた私を怒るかな。
悲しんでくれるかな。
……くれるかな、じゃないか。
言わなきゃ。
どちらにしても、もう、翔とは、って。
勝手に決めた私をどうか許してね、翔。
記念日でもない。
お互いの誕生日でもない。
でも、翔に指定されたお店は高級なレストランで、ドレスコードもある場所だった。
予感がする。
悪い予感だ。
きっとアメリカのことが無ければ、これから私は涙を流して喜んだはず、という悪い予感。
「翔、こんな高いとこ」
「ナギサは気にしなくていいの」
そう言って少し照れ臭そうに笑う、スーツを着た翔の、後ろ。
……そういう、少し抜けてるところも好きだったの。
翔、好きだったよ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 837人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
cori(プロフ) - ハルさん» 嬉しい！ありがとうございますっ！ (2019年9月24日 7時) (
レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - あいにど大好きです！ (2019年9月23日 15時) (レス) id: 7a7a9f2162 (このIDを非表示/違反報告)
cori(プロフ) - ともさん» ともさんいつもありがとうございます！スッキリホッコリしていただけて良かった〜！とりあえず部長と各務ちゃんを応援した人がみんな幸せになれて満足です笑 そういえば大野部長は…？今度Twitterでみんなのプロフィール纏めたのまた出しますね笑 (2019年9月4日 21時) (レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - わぁーすっごくスッキリ！そして〜すっごく幸せな持ちになれて心がホッコリ(*^^*)なんか〜潤くんらしいなって勝手に思って嬉しいです(笑) (2019年9月4日 8時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
cori(プロフ) - mayuさん» mayuさんありがとうございます！ようやく完結しました…！部長は松本さん入社してすぐ気付いたんだろうな、と思います…ナギサさんの事をよく見てたってことでもありますよね…確かに3組もいる！営業部の女はみんな営業部の男と笑 はい、また読んでくれたら嬉しいです〜 (2019年9月1日 19時) (レス) id: d86fdce482 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：cori
| 作成日時：2019年7月10日 21時
