〝異常〟だなんて言わせない。【絶対零度】 (ページ9)

今日:11 hit、昨日:21 hit、合計:72,615 hit

07＿可哀想な子ページ9

『友達の家に泊まりに行く』なんて言えばすぐ行かせてくれた。

Aの家は厳しいけれど、友好関係まで縛り付けるようなルールは無いし、夜は勝手に家を出ようが誰かを部屋へ招いて遊ぼうが、何も言われない。
上瞼が重くて、今にも下瞼に横たわりそうだが、必死で堪えて目を開ける。

直樹「眠いなら寝ていいんだよ？」

A「やだ………………まだ起きてる」

直樹「ふふ、意地っ張りだなAは」

A「眠くないんだもん」

直樹「眠たそうな顔してるじゃんか」

数秒も経てば、直樹にもたれかかってうとうとしだす。
綺麗な黒髪に指を通して頭を撫でると、目を開けている時間より、閉じている時間の方が長くなった。

A「昨日ね……また死んじゃったの……」

直樹「誰が？」

A「…………鳩…この前､羽を痛めてたから添え木してあげた子…………、血まみれになってた……」

直樹「誰がそんな惨いことしたんだろうね。
可哀想に…………」

その鳩を殺したのは直樹なのに。
知らずにAは言葉を紡ぐ。

直樹「きっと油断したんだな」

A「ゆだん…………」

直樹「Aに手当てしてもらって、また会えるって喜んで油断してるうちに車に轢かれでもしたんだろ」

A「私のせい……？」

直樹「ううん。Aはひとつも悪くない」

良かった。そう言ってAは眠りについた。
固く閉じられた瞳、スゥスゥと規則正しい寝息をたてて眠る姿をじっと見つめてニコリと笑う。けど、そんな彼の目は笑ってはいなかった。

まるで人形のように整った顔、小さい頃から本が好きで、賢い子だった。
それ故に、周りからのプレッシャーも強かった。『何でもできて当たり前』『会社を継ぐのはこの子だ』と当然のように言われ、彼女自身も『完璧に何もかもできなくちゃ』と思うようになっていた。

幼稚園時代から毎日毎日塾に通わされ、夜は寝る間もなく家庭教師。休日は礼儀作法や裁縫、料理を厳しく教えられる。

生まれつき持っていたフワフワしたどこか掴めない性格のお陰で、こんなスパルタ教育の中でも生き延びられたのかもしれない。

でもそんな状況に耐えられるはずもなく、心のなかで悲鳴をあげていたAを救ったのは他でもない、直樹だった。
それもあってかAはいつしか直樹に依存するようになったのだ。

.