SnowScape (ページ30)

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翔太side

この際別に誰でもよかった。

でもまさか知っている人だなんて思わないじゃないか。

気づいていれば最初から助けなんか求めなかったのに。

「翔太くん、もう大丈夫だから落ち着いて。ゆっくり吸ってー、吐いてー。」

『はぁはぁ、っん、は、ぃやっ...こ、こわい、、はぁ』

目の前の男は悔しそうに顔を歪めると、

顔が首元に埋まるように俺の頭を抱えた。

「翔太くん、もう大丈夫。大丈夫だよ」

俺の安心する言葉を声色を真似るようにやさしくやさしくそう言った。

俺のせいでこんな俺の対応にも慣れてしまって。

＿＿＿＿＿＿＿＿

「はい、お水。」

一人暮らしの、でもそれなりにグレードの高いマンションの一室。

俺を二人掛けのソファに一人で座らせ、

部屋の主は床に膝をついてローテーブルにグラスを置いた。

お前は今日仕事休みなのに、職場の先輩に家の前で会って、泣きつかれて

それなのにこうやって親切に

エントランスでしゃがみ込んだ俺を部屋にあげる。

目の前のグラスに手を伸ばせずに、

落ち着かない自分を抱きしめるように二の腕を掴んだ時、痛みが走った。

『、って。』

右手の小指側の側面が擦り剝けて血が滲んでいた。

無我夢中で走っているときに

電柱やブロック塀に何度かぶつけた気がしないでもない。

「洗った方がいいっすよ。洗面所こっちね。」

さっきまでの近すぎるくらいの距離とは違って、

離れたところから手招きをする。

この男だって涼太に負けず劣らず俺のことをわかりすぎててちょっとむかつく。

『ねぇ、目黒。俺もう帰る。亮平と佐久間家で待ってるし。』

明日も仕事場で会う気まずさと、

先程まで縋りついてしまった場所に留まる居心地の悪さと。

「でも絆創膏くらい貼って帰らないと亮平くんびっくりしちゃうんじゃない？」

そういうと思った、とでも言うようにふっと笑って

洗面所のドアをカラカラと引いた。

＿＿＿＿＿＿

「タクシーもう来たって。」

玄関扉の前で立つ俺の目の前でそう言うと、

急にしゃがんで靴を履き始める。

『え。いいよ、ここで。』

「根掘り葉掘り何があったか聞きだすつもりはないですけど、何かから逃げてきたんでしょ？タクシーに乗る前にまた来たらどうするんです？」

尤もな意見に、さっきの恐怖が蘇って体がぶるりと震えた。

「ほら、行きますよ。」

肩を押されて一緒に部屋を出ると、後ろでオートロックが閉まる音がした。