SnowScape (ページ29)

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...寝ても覚めてもページ29

翔太side

病院からの帰り道。

薄暗い中バスから降りて住宅街を歩く。

使い古したスニーカーがアスファルトの欠片を蹴って

寂しくザリッと音をたてた。

家で佐久間と待つ亮平のために早く帰らなきゃという気持ちと

未だ病院で仕事中の涼太のことが心配な気持ち。

それと何をするにも頭の片隅にあるあの日のスーパーでの出来事。

全部が合わさって黒いもやもやになって、

ずっと胸に詰まっているみたいに苦しい。

誰かに相談すれば楽になれるかもしれない。

俺の過去のことのように人を食らう不幸な話じゃない。

でも口を開けば悩んでいる根本よりも

それに対する黒い感情が先に出てしまいそうで。

それに俺のことで散々周りに迷惑かけて巻き込んでおきながら

やっと片付いたと思ったら、また悩んでますなんて、

悲劇のヒロインもいいところだ。

可哀そうな俺を救ってください？

悩み事が重なっただけで人に縋るなんて。

俺ができないだけできっと皆この程度の悩みは自分の中で消化している。

お前だけ甘えてんなよ。

誰にも言われたことないのに、誰かに言われた気がした。

急に目の前の街灯がともって、ふと我に返って立ち止まる。

自分の歩く音が止んで、少し離れた大通りを車が走る音が微かに聞こえた。

ねぇ、今まで歩いているとき何が聞こえてた？

思考に埋もれている間、ずっと遠くで耳に入っていた音が。

靴の底が地面の小石と擦れ、ザリッと音をたてた。

俺じゃない。俺の後ろでその音は鳴った。

気づいた途端走り出した。

後ろから追いかけてくる音がするかどうかは

耳の中でびゅうびゅうと風が響いてわからない。

自分が今どこを走っているのかもわからない。

ただ逃げなきゃ、という思考が頭の中でいっぱいなのに

絶対に家に向かってはダメだと妙に冷静な自分もいた。

寒い季節じゃないのに荒い呼吸のせいか喉が切れそうに痛い。

無我夢中で走り、いくつもの角を曲がる。

どこまで逃げればいいのか、果たして何から逃げているのか

考える余裕も理由も見つけられないまま

視界に入った自動ドアが開いたマンションのエントランスに駆け込んだ。

出て来ようとしていた人の胸に思い切りぶつかるも

謝るという思考までたどり着かず、

「大丈夫ですか」と支えられた腕に縋りつく。

『た、すけて、くださっ、たすけ...おねが、』

今さえ乗り切れれば何でもいいと手を伸ばした相手は。