プロローグ ページ1
ああ、どうして、私はこんな目に合うのだろう。
濡れていてもわかる、小さい頃から自由に気まぐれに伸ばしていた、お尻の下まで伸びた、長い長いざんばらの髪を撫でる。
なんて不運なんだ。なんて可哀想なんだ。
肘下から手首までの凸凹とした、びっしりと刻まれた赤い横線を、指の腹で優しくきゅうと軽く押すように撫でる。
手をそのまま流れるように動かし、太ももと恥部の付近に刻まれた汚い「正」の字の傷も、撫でる。ピリピリとした。
でも、生きるのはとても楽しみだ。
折れた、感覚が無い鼻をヒクヒクとさせる。
笑う時鼻をヒクヒクと動かすのは私の癖だ。豚みたい、と親からは怒られていたが、友だちからは愛嬌があると褒められていた。
後ろからゆっくりと、赤い血と白い何かが出ているらしい股の下にまで流れてきた。
だらしなく開いた足の間に冷たい水がひたひたとコンクリートに滲みながら入り込み、だんだん視界に入る面積を拡げていく。
だってどんな物語にだって、不幸な人間はその後もっと幸せになる描写があるじゃない。少なくとも。
釘で打ちつけられた足の指がぴくびくと大きく震える、何度も何度も跳ねる。
みんながそう言うじゃない。
世間のルールでしょう、至極自然なことなのでしょう?
なら、私は待つ。どれだけ絶望の底に沈んでも光は見えるんでしょう?
冷たい白い便器の土台に凭れ掛かる
不幸になればなるほど、希望は、幸せは優しく、蕩ける程に心地好く甘美なものになることでしょうから。苦痛は苦痛でも、極楽が待っているのであれば。
私は心の中で、低い天井に向かって、両腕を広げて言った
「こんにちは」
その天井が、新しい目を手にした象徴となった。消えない記憶と光景となった。
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作者名:寒空39 | 作成日時:2017年2月15日 0時