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___行け。A。
不意に、後ろから、声がした。ずっと、ずっと聞きたかった声。随分と久しぶりに聞く声だったが、すぐにわかった。
お父さんだ。
なんでお父さんの声が聞こえたのか。そんなことは考えなかった。ただ、懐かしい大好きな声で名前を呼ばれたことがとても嬉しくて。短い言葉だけだったが僕には十分すぎた。
気がつけば僕は、その声の通りに外へとびだしていた。
まるで、籠から解き放たれた小鳥の気分だった。ひび割れた窓から見ていた景色はこんなにも綺麗なものだったのだと、空はこんなに青く輝いていたのだと、気づいた。
荷物も持たずに、走る。
もともとあの家に僕のものなんて無かった。
靴も履かずに裸足で、走る。
自分の靴なんてもう、捨てられてしまった。
前を向いて、走る。
振り返ると父さんのそばに戻りたくなってしまう。
ただ、
ーーー
どれくらい走っただろうか。もう完全に見たことのないところまで来てしまっていた。
思い切り飛び出してきてしまったがそもそも僕には体力が無い。人並み以上に働いてはいたと思うけど所詮子供。まともに外に出してもらえていない僕に体力なんてあるわけがなかった。
普段から食事も取れていないし水すら飲んでいない。そのことを思い出した瞬間、急に体が怠くなってきた。綺麗な景色は霞んで見えるし青い空も輝きを失ってしまった。
行く場所もない。そんな場所、僕には用意されていない。
それでも、走らないと。
何かに取り憑かれてしまったのかもしれない。今まであの家にいても何も思わなかったのに、何故か急に逃げ出したくなってしまったのだ。
もう足も痛いのに、止められない。
頭がクラクラするけど、止められない。
なぜだかわからないけど、止めたくない。
不意に、視界がぐにゃりと歪んだ。
体のバランスが、取れなくなる。
そして、視界がまっくろになり…
ドンッ
壁にぶつかった。
ーーー
更新遅くなってすみません。
次はもう少し早く出します!
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作者名:琥珀 | 作成日時:2019年12月15日 16時