君と紡ぐ永遠＊３

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神戸に着いてからも、当たり前のように気持ちは晴れなかった。

ただがむしゃらにひたすらジャンプ跳びまくったり、倒れるまで滑り込み。



「ゆづ！ちょっと来て」



神戸入りに合わせて来てくれた奈々美先生が呼んでる。

リンクサイドまでフラフラの足取りで滑っていくと、先生は眉をしかめたけど何も言わなかった。



「そろそろ来シーズンの曲とか決めていきたいんだけど。何か希望とかある？」



もちろん添えるとは限らないけどね、と言いながら

いろいろなＣＤを並べ見比べている奈々美先生。

僕はそこまでクラシックとか詳しくないし先生が最終的に決めるけど、

テーマとか表現したいものとかは僕の意見を聞いてくれたりする。




「今年は何か明確な物語性のあるのがいいかもね。ミュージカルとか映画とか」

「物語……」




ふいに、図書カウンターの中で本を読むAが浮かんだ。

伏せられた睫毛が頬に落とす影。

さらさらと落ちてくる髪。

僕を見つけた瞳がゆっくり細くなって、

柔らかく微笑む口元。


こんな些細なことで、ここまで思い知らされる。

思い出す暇さえくれない。



忘れなきゃ、思い出せないんだから。





「！ちょっと……ゆづ、大丈夫？」

「………うん、平気」

「…今日はもうやめといた方が良いね」

「大丈夫だって。やるよ」

「あのね、あなたはアイスショーに出るの。

　お金を払って見に来てくれるお客さんがいる以上、パフォーマンスには責任持つ。

　あなたがやりたいかやりたくないかじゃないの」




強い瞳でエッジケースを差し出す先生に言い返す気力もなくて、

流れてくる汗を拭いながらリンクから上がる。

情けない。

そこからどうやって着替えて先生と別れたのか覚えてないけど、

会場を出た後、自分の意思とは無関係に足はふらふら歩きだした。






少し行ったところにあるベンチに座って、会場を眺める。

１６年前の地震ではここも大きな被害があったらしい。

だけど今の様子からは想像もできない。



強くなりたい。

強くなって、スケートもAも諦めなくていい人間になりたい。

だけど、その具体的なイメージが何もない。

こうなりたい気持ちだけで、どうすればいいのか自分でもわかってないくせに。

スケートだってAだって大切にできてないくせに。


それでも、会いたくて、会いたくて、苦しい。




A。


A。









「羽生くん」









聞こえてきた優しい声に、身体中が震えた。

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