貴方しか ページ31
...
岩礁に響く素早い跫音。
中也「う.....マフィアの攻撃から逃れられたのか...」
中也には振り返る気力もない。だから《GSS》か《羊》の連中だと思っていた。
『っ.....中也！！！』
中也「あぁ...Aか...」
『我慢して、今殺鼠剤が溶けた血抜くから』
中也「んん...！！」
器用に傷口から血を抜き取り、自分の腕を切って献血し中也の体内へと輸血していった。そしてAのだった血で傷口を固める。
中也「...大分楽になった、助かったぜ」
『.......良かった。』
安心してその場にヘタっと座るA。
『あー血液型同じで良かったよ』
中也「そうだな」
体力も徐々に回復してきた中也は、少し冷静になって考えた。
中也「.........何してんだお前」
よくよく考えれば《羊》とは真逆の行動をしているA。
『今更か。.......まあ、見ての通り《羊》を辞めた。』
そう云って、先程自身で傷付けた右腕を見せる。そこには《羊》の目印である青い細帯が無かった。
中也「.....マジかよ」
Aは座り直し、顔を足に埋めて話始めた。
『...私は止めた。中也を裏切るのは止めよう、《GSS》と組むのは止めよう。何度も何度も、独りで抗議した。』
『でもあいつらは.........。信頼してなくて正解だった。』
でもあいつらは、その後の言葉は明白だった。
『そして今日、先回りしてやろうと思ったのに.........』
中也「思ったのに、何だよ」
『.....あいつらは私を...........隠れ家に閉じ込めやがった.........。』
少し躊躇いながら、Aはそう答えた。中也は本当に信頼していた仲間だったから、残り僅かでも踏みにじりたくなかったから。
『...私の力の事、中也以外の誰にも話さなくて本当に良かったよ.......。でも間に合わなかった、ご免...中也』
泣いては無い、泣けないのに。その声は泣いているように聞こえた。
少年はただ、静かに優しく何も云わず少女を見つめていた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 63人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ルナ | 作成日時：2023年5月14日 21時
