プール ページ45
水への憧れがある。
昔私はスイミングスクールに通っていた。皆が通っていたからと言う理由だったらしい。センスはあまりなかった覚えがある。しかし、ただ、水中眼鏡越しに見える世界はうつくしいと思ったのだ。
プールの所へ行く、水着と小道具を付ける、シャワーを通る、足先の水は始めは冷たいが入ってしまえば水と体温が同調する。おっと準備運動を忘れてた、慣れたところでもう一度往復をする
そして、眼鏡を付けて水に潜る。
遠くに肌色が見えるが、どこまでも水は水色をしていた。光が淡く水中に流れている。直接の光は水によって包まれてその権威を落とす。水の中では何もかもが無力なのだ。ヒトさえも、爪を持つ物も、牙を持つ物も、重力さえも。水は強い。水泳選手は水に抗うこと無く水と折り合いをつける。
センスは無かった。きっと泳ぐときは溺れながら泳いでいたように思える。
クロールの息継ぎがどうしてもできなかった。どうしてもというほどに練習はしていないが、その時の私にはどうしてもという言葉しか言えなかった。授業中25メートル泳いだら成績が上がると言われたときは地獄だった。一番最後に溺れながら泳いでいた。遠くでとうの昔に終わった皆が居る。一番遅い者が束になっても私は一番遅かった。
「頑張れ、あと少し」
前を先生が歩いている。水中で歩いている。只一人私のために歩いている。応援されると現実と精神とかけられてる期待のギャップに笑ってしまうからやめて欲しかった。息継ぎが上手に出来ない。汚い泳ぎなのだろうなと思いながら25メートルの手前で足を着いた。その時の残念なような、惜しまれるような、悲しいような妙な静けさを殺して欲しいと思った。
水中から水面を見ると、変な色に光っていた。ここから手を伸ばすと指先が消えた。水面から上は世界が無いようだった。手を戻すと指先が戻ってきた。
水の中には何も無い。音だって弱まる。
微妙に仲を測りかねる連れの足も、煩い先生も、酸素も、私という存在だって居るかどうか怪しいかもしれない
水となり泡となり朽ちて消える事も出来るように思えた。
今は水という存在が遠くて恋しくて仕方が無かった。習い事を続けていればよかったかもしれない。
しかし私は潜ることが好きなので、その選択肢は選ぶことが無いだろうなとも思った。
プールに行きたい。プール上がりにはラムネと炭酸を
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作者名:4696パーカー | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/102620014/
作成日時:2015年3月7日 8時