【お題型だったり】リハビリテーション『短編集』 (ページ11)

今日:16 hit、昨日:1 hit、合計:3,273 hit

地質調査員ページ11

続、友人からの三題噺
お題→土、ハンガリー、ファッジ

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

広い庭園の中で、私は三時のおやつのファッジを食していた
一人でお茶会ついでに地図帳を開きながら、次は何処の土を採ってくるのだろうと思いながら

私の両親は割と忙しい研究者らしかった
外国の土を地質調査して何かに使うらしい
その何か、というのは、私には一㎜も知らされていないし、今後も知るつもりはない

「じーさん、今日の天気はどうなるかしら」

「･･････もうすぐ雨が降るぞ、お嬢様」

趣味で庭師を兼ねている祖父を、こんな大きな”お家”に似合わないように呼ぶと
向こうは皮肉を込めて返してきた

「ちょっと、その呼び方はやめて頂戴」

元々、私はそんな呼ばれ方をする”ご身分”ではなかった
凄く貧しい家系で、でも、一緒に居る家族、持つ物しか持たない家、それらを幸福としてきた
勤勉で、誠実で･･････そんな生活を、私は嫌いではなかった
でもそれが幸いだったのか、それとも災いしたのか
一家の中でも特に勉強が好きだった父は博士になり、同じ立場の母と出会い
人々を幸福にする研究をして多額のお金を手に入れた

どうせだからと、ある程度だけ見た目を派手にしただけでその他は全部寄付するという
前までの性格を忘れなかったのだが、もっと多くの人々を救うために両親が家に帰ってくる日が
少なくなってしまった

それ以外は、他に何も変わらないはずなのに、少しだけ、寂しい

「ねえ」

「なんだ」

鋏を持つ手を止めないで話を聞く祖父

「一人の娘を幸せに出来ない研究者は、他者を幸せにすることができるのかしら？」

ピタリと手が止まる、だがそれも数刻の間だけだった
何時もの調子を崩さず、出した答えは

「さあな」

と言うだけだった

遠くからエンジン音が聞こえてくる

「雨が降るって言ってたけど、まだ続けるつもり？」

地図帳とトレイを持って立ち上がる
祖父は無言で盆栽の形を整えていた
屋敷の方から玄関の扉が開く音が聞こえた

「そう、じゃ、ジジイ頑張ってね」

私は中庭から立ち去った
ついでに、今日持ち帰ってくる土はハンガリーの所の土だと電話口で言っていたのを思い出した

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

友人「お前が書いてる話って大体若干シリアス入ってるよな」

許してくれ友人、何か知らないけどいつの間にかこんなのになってる