人間万事塞翁が馬

６話 後編 ページ11

「……なるほど、それで粘着質なのが嫌になって結局偽デートをでっち上げた、と」
「…………はい」

あれからほど近い喫茶店で、私は実から事のあらましを聞くところとなった。件(くだん)の女性にはまあなんか色々どうにかしてお帰りいただいた。

実からの話をまとめるとこうだ。
先程の女性は実が通う大学の先輩で、少し前にその人から告白された実は一度きっぱりそれを断ったのに、良く言えば粘り強い(悪く言えばかなりしつこい)その先輩は、実に二度三度とアプローチをしかけてきた。ついには泣き落としの真似事までされていよいよもって面倒くさくなってきた実は、私を架空の恋人として先輩に見せつけることで諦めてもらおうとしたらしい。
──とりあえず、私から言いたいことはひとつ。

「んなことなら最初から私にちゃんと事情を説明しろ！！！！！」
「すみませんでした！！」

今さらこの程度で縁を切るほどの仲ではない。私も実も、それなりにお互いに情はある。
が、それとこれとは話が別だ。

「そもそもだよ？話を聞くに、その先輩がしてることもうほとんどストーカーじゃん？警察に相談すれば良かったんじゃないの」
「それは……なんというか」

煮え切らない。
なんか知らんがまあ事情があるんだろう。

「……で？私と実の仲をそういう風に見せればいいってこと？」
「えっ」
「どした？」
「いや……協力してくれるんだなって」
「当たり前でしょ。実が困ってるんだから」

ぽかんとした表情の実は放っておいて、私はスマホを操作しながら考える。あの先輩は実の実況アカウントも把握しているらしいが、とりあえず顔を晒したり誹謗中傷を行ったりはしないだろうとのことだ。法学部生であるがゆえに。
──ならば、こうしよう。

「実、私にひとつ考えがある」


少しして、実のツイッターアカウントに『プリンうまい❀(*´▽`*)❀』のツイートとともに一枚の写真がアップされた。なんの変哲もないプリンの写真だ。
その向こう側に、もうひとつのプリンと女物の腕時計をした腕が写っている以外は。

同じ頃、私も無言でプリンの写真をアップした。
わざと自分がつけている腕時計が写るようにして。

「付き合ってる、なんて誰も言ってないもんね！『仲良い友達』でもこれくらいするでしょ」
「お前……性格悪いな……」
「そこは頭いいねって言って欲しかった」

ともあれ、かくしてフォロワーさん方の間では私と実の関係性がまことしやかに噂される運びとなったのだった。

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