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邂逅(3) ページ4

 
 

 
「助からない、って……」




「言葉通りだァ」




 
この人が言ってることの意味は理解できる。


ただ、頭が現実を受け入れるのを拒否している。




うそ、勘違いかもしれない。手当てをしたらまだ助かるかも。


まだ………。






「やめとけェ」






父と母の居る隣部屋に赴こうとすると、ぱしりと腕を掴まれ引き止められた。



 

「…どうしてですか」




「一般人が軽はずみに見ていいモンじゃねェ」





その言葉は、それくらい凄惨だという事実を言外に示していた。






「……アンタ、一人娘かィ」




傷だらけのその人は唐突に私に問うた。





「……そう、ですけど」




「そうかィ」






その人はそれだけ言うと押し黙ってしまった。




どうしようもない沈黙。




聞きたいことはたくさんあった。




貴方は一体誰なのかということ。さっきの化け物はなんだったのかということ。

それから、私はこれからどうしていけば良いのか。




だけど、それが口に出ることはなかった。




それ程までに動揺して、混乱していた。





十八年間一緒に過ごして、たくさんたくさん愛情を注いでくれた父母を亡くしたという実感さえ湧いていないのだから当然と言われると当然なのかもしれない。






やがて長いような短いような沈黙を破ったのは、彼の声だった。






「今夜は宿で休めェ。明日、もう一度ここに来い」



 

そう言うとその人はパン、と手を叩いた。





するとずっと待機していたかのように、忍者のような風貌の人達が現れた。






私は彼に問いたかったことは何も問えず、その人たちに促されるまま家を離れた。


 


 
 

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作者名:薄氷 | 作成日時:2021年2月8日 20時

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