☆ ページ44
「そんなこともできないのか」
向けられる冷ややかな視線。
反抗的な態度をとることはない。
嘲笑われた彼女はひたすら無言で作業を続けているだけだった。
本当にこれでいいのだろうか。
私は此奴の何に興味をもっていたのだろうか。
「避けてください」
心の壁はまだ厚い。
もしかすると前よりも厚くなったのかもしれない。
しかし、私を見つめるその瞳には敵意は感じられない。
死人の眼球のような異常な穏やかさを感じるぐらいには彼女は私の言動によってナニカがおかしくなっていっている。
そんな姿が酷く愉快に思えて、私は彼女の足に自身の足を引っ掛けた。
人一人分の体重が木材にいきなり押し付けられて床が笑い声のような音を立てる。
「はは、」
笑い声は途中でつっかえてしまった。
そんな私は、如何にも作り物くさい。本当に自分で自分が嫌になるぐらいに惨めだ。
足を引っ掛けた私を睨みつける気力もないぐらいに柳は弱っているらしく、私を見てすぐに床に散らばった物たちを集め始める。
そして、柳が手を伸ばしかけた紙を踏みつけると彼女は小さくため息を吐くだけだった。
私は何をしたかったんだ。
良好な関係を築いていたこの女の友人に手を出しては振りを繰り返し、ちょっかいを出しては暴言を吐きあい、お次は嫌がらせか。
「………はっ、」
歪で、つっかえた笑い声がその場に響いた。
それは私の口ともう一人の口から出たものだった。
目の前で落としたものを拾い集めているこの女の口から重なったのだ。
惨めなものだ。私もこの女も。
「お前は、本当に駄目だな」
「貴方も、本当に駄目ですね」
駄目だ駄目だと言われるこの環境がとても心地いい。
こんな感覚はおかしいのだろうか。
「柳、愛してる」
「ええ、私も」
気持ちの悪い愛の伝え合い。
伊作は私たちの関係をそう表した。
嘘だろうが、依存だろうが何だろうが幸せだと思ってしまった。分かり合えないと思っていた彼と偽物でも、確かに愛を伝えあっている。
「柳さん。幸せだと思いますか」
「何で」
そう思うこと、ないのに。
私たちは確かに幸せなのに。
「答えて下さい」
「……幸せ。心の底から幸せだよ」
本当。泣けるぐらいには幸せだと思っている。
こんな形でも、良いんだ。私たちは分かり合っている。愛し合っている。
「私も、幸せだ」
そう言っているのに、彼の顔は苦しそうだった。
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はたはた(プロフ) - 雅榴さん» 雅榴さん、コメントありがとうございます！とても沢山褒めていただけて嬉しいです^ ^リクエスト承りました！お時間がかかると思いますが必ず書かせていただきます！ (2019年5月11日 16時) (
レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - お初失礼します。他にはない独特の世界観や言葉のセンス等々いつも楽しませて貰っています。女好きのシリーズで土井先生のお話はリク可能でしょうか？もしよろしければご検討ください。無理せず今後も頑張って下さい。 (2019年5月5日 17時) (レス) id: cad46f67b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さえき | 作成日時：2018年8月18日 14時
