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穏やかなものね、と ページ38

「穏やかなものね、作兵衛」
「そうですね。柳さん」

俺たちはいつからこうしていたのだろう。

「見て。桜がすごく綺麗」

目を向けると咲いていなかったはずの桜が咲いている。
そうか。俺は、俺たちは

「綺麗、ね」

そうですね。とても綺麗だ。

「このままずっとこうしていたい」

そりゃあ俺だってそうですよ。
でも貴方が本当に求めているのは俺じゃない。

ほら遠くにいる食満先輩は所構わず穴を掘る綾部先輩を怒っている。
仲裁に入るなりすれば良いのに。
先輩はそんな貴方の穏やかさに惹かれるだろうに。

「行かなくていいんですか」

いつも優しげに細められている目を閉じて首を振る。
この人はもう諦めているのだ。
忍びの考えに完全に同調できない自分を悔いて、彼には自分よりももっと相応しい女性がいるだろうと強くなることを諦めてしまった。

貴方は俺が見た中で1番強い女性だった。
腕っ節が強いとかそんなことじゃなくてできなくても失敗しても頑張り続ける人だった。
そんな貴方でも恋愛ともなると奥手になるのに気がついたのはいつからだろう。

「悲しくないんですか」
「全然、だって作兵衛が側にいてくれるもの」

そうですか。
俺でも支えになれるんですか。
貴方の食満先輩への思いはその程度なんですか。

俺は無意識のうちに唇を噛んだらしい。
どろりとしたものが流れて口に入る。慣れない鉄の味がした。

「いつもありがとう」

違う。俺はそんな綺麗な言葉を向けられていい存在じゃない。
俺は貴方の食満先輩への想いを利用しているんだ。
自分の目的のために貴方を利用しているんだ。
まどろっこしいとか思っていても口には出さない。出したらこの世界は終わってしまうんだ。
だから俺は貴方と食満先輩を近づけるわけにはいかないんだ。

「不思議だけど作兵衛とはずっと一緒にいた気がするの」

そうですよ。ずっと一緒にいたんですよ。
貴方が忘れていることも俺は全部覚えているんです。
だってこの時間は俺にとっての全てだから。

「そうですか。俺も」

俺も同じ気持ちです。

そう言って笑うと貴方の目は別の方向を向いていた。
本当に好きですよね。食満先輩のこと。

食満先輩が視線に気がついて手を振ると貴方はすっと目線を逸らしてしまう。
俺が手を振ると食満先輩は歯を見せて笑ってくれる。


「穏やかなものね、作兵衛」


柳さん、貴方はそれで満足なんですか。

立花仙蔵という男→←早いものね、と



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はたはた(プロフ) - 雅榴さん» 雅榴さん、コメントありがとうございます!とても沢山褒めていただけて嬉しいです^ ^リクエスト承りました!お時間がかかると思いますが必ず書かせていただきます! (2019年5月11日 16時) (レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - お初失礼します。他にはない独特の世界観や言葉のセンス等々いつも楽しませて貰っています。女好きのシリーズで土井先生のお話はリク可能でしょうか?もしよろしければご検討ください。無理せず今後も頑張って下さい。 (2019年5月5日 17時) (レス) id: cad46f67b3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さえき | 作成日時:2018年8月18日 14時

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