☆ ページ35
「もう、卒業してしまうの」
先輩方が卒業して１年。私たちは忍術学園を卒業する。
私が卒業するのを気遣っているのか、柳はいつもよりも穏やかに会話をしているように思えた。
「鉢屋くん。私、この学園を出る」
驚いて彼女の方を見ると、彼女は私のことを見ていた。顔が熱い。冷静でいられない。その瞳でずっと私だけを見ていてほしい。
「貴方には本当に感謝してもしきれない。でも私は誰も私を知らないところに行きたい」
彼女の唇が弧を描いて、目元が優しげに細められる。それは彼女が彼奴に向けていた表情だった。
「だから私は」
「駄目だ」
その表情を向けられることを望んでいた。でも今はそれ以上に望むものがあった。だから私はお前が言おうとしたことを真っ向から否定したんだ。
彼奴のことを心から愛して大切にしている彼女が好きだった。自分が彼奴の立場に立てないことは分かっていた。その表情だけでも向けてほしいと躍起になった。
それなのに実際にその表情で見つめられてしまえばどうだ。耐えようのない違和感が続いたかと思えばどうかこの表情を般若のようにさせようかとも思う。
「それじゃあ」
彼奴は、柳は歩いていく。その足取りはちょっとそこまで散歩に行くようで手荷物も最低限の物しかもっていないのか入り用のものを買いにいくだけのように私より一足早く自然に学園から出て行ってしまう。
「待て……待ってくれ」
声がうまく出せない。彼女に伸ばした手は力なく空気を掴むだけだ。
「やだ、嫌だ、私はお前がいないと」
依存していたのは私だった。
だから私はお前を依存させようとムキになって、ことごとく失敗してきたのだ。
いけ好かない顰めっ面、私に会うとため息をつく仕草、強さの裏に隠された脆さ。それらは私が求めていなかったものなのに、今更それこそが私が彼女を求める理由だったのだと自覚する。
「お願いだ、私はお前を」
愛している
一度だけ振り向いて私を一瞥する。
「さよなら」
私を見るその瞳はひどく冷たいものだった。
そうだ。その瞳で私を見てくれ。
お前の愛した彼奴を殺したこの私を嘲笑い、頑なに拒否して、時には罵声を浴びせてくれ。
だってそれだけが私の心に残り続ける彼奴の最後を一時だけ忘れさせてくれる。
もう彼女は振り向かない。その強さがかつての私が惹かれた最も愛したものだった。
いつかもういない存在から逃げ続ける彼奴に満ち足りんばかりの幸福を
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はたはた(プロフ) - 雅榴さん» 雅榴さん、コメントありがとうございます！とても沢山褒めていただけて嬉しいです^ ^リクエスト承りました！お時間がかかると思いますが必ず書かせていただきます！ (2019年5月11日 16時) (
レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - お初失礼します。他にはない独特の世界観や言葉のセンス等々いつも楽しませて貰っています。女好きのシリーズで土井先生のお話はリク可能でしょうか？もしよろしければご検討ください。無理せず今後も頑張って下さい。 (2019年5月5日 17時) (レス) id: cad46f67b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さえき | 作成日時：2018年8月18日 14時
