☆ ページ30
下腹部に手をあてても何にも感じない。
ごめんなさい。
ちゃんと産んであげられなくて。
私は今、目の前のクソガキに真実を話す。
あの人は優しくて生真面目でとても穏やかな人だった。
本当に心の底から優しい人だった。
私は結婚なんてしてもしなくてもどうでも良かったけどあの人とは結婚して本当にずっと一緒にいたいと思ってた。
親からも承諾してもらって町で一緒に暮らそうと思ってたの。
それは私がほしいって言い出したもの。名前が決まるまでそう呼ぼうと決めたもの。
そして突然失われたもの。
ある日、私の腹の中から流し出されたものは赤黒くて手のひらにも満たなかった。ぷつ、と切れたへその緒につながっていた糸のようなものは細っこくて私とこの子との繋がりはこんなにも頼りないものだったのかと気がついた。
顔はのっぺらぼうのようで、当たり前だけれど表情はうかがえない。
手のひらにのせたらもう冷たくなっていて心臓の動く振動は最初からなかった。
指が分かれて手になっていただろうところを優しく握りしめても握り返してはくれない。
私の血ででろでろになったものをぬるま湯で洗うと薄桃色の肌が見えた。皮膚がまだ薄くて血管が透けていた。
そこでやっと私は涙した。うずくまって涙が小袖の上に落ちると自分自身の下半身が血みどろなことに気がつく。
自分はもう駄目かもしれない。守るべきものを手に包み込んで私は横になった。
心臓の音がする。私の心臓の音。
いたい。いたいなあ。なのに、私が今生きていることに安心する。
酷くて、ごめんなさい。ちゃんと産んであげられなくて、ごめんなさい。
こんなに血を流しているのですから私もそう長くはないでしょう。この子を1人にはさせない。
でも私は生きてしまった。その時から私の人生はあの人だけになった。なのになんであの人までも行ってしまったの。なんで私のあの人まで。
愛おしく見つめていたほのかな腹の膨らみはあの日あっさり流れて出てしまった。
私を慰めて寄り添ってくれていた彼は兵役だと言われて連れていかれてしまった。勝ちも出来ない戦に巻き込まれた彼はきっと帰っては来ない。
彼は先程注文したあんみつを食べなかった。こんな話をした後に何か食べることなんて出来ないからだろう。酷い話だものね。ごめんなさい。
いつか私の闇の半分を肩代わりしてくれたこの成り代わり糞野郎に幸福を
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はたはた(プロフ) - 雅榴さん» 雅榴さん、コメントありがとうございます!とても沢山褒めていただけて嬉しいです^ ^リクエスト承りました!お時間がかかると思いますが必ず書かせていただきます! (2019年5月11日 16時) (レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - お初失礼します。他にはない独特の世界観や言葉のセンス等々いつも楽しませて貰っています。女好きのシリーズで土井先生のお話はリク可能でしょうか?もしよろしければご検討ください。無理せず今後も頑張って下さい。 (2019年5月5日 17時) (レス) id: cad46f67b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さえき | 作成日時:2018年8月18日 14時