これからだった私と中在家長次 ページ23
「ごめんね。遅くに押しかけて」
「……大丈夫です」
初めは聞き取れなかった声も今となっては少し離れていても聞き取れる。
「別に何があるって訳じゃないんだけど」
「そうですか」
以上、会話終わり。
彼はいつもそう。余計なことを言わず、だからといって会話を好まないわけでもない。話しかければちゃあんと返事を返すのだが、当の本人と言えば偶に一言二言話すだけなのだ。それでも気まずい雰囲気にならない辺り、もう慣れてしまったのだろう。それとも私は自分が思っているより図太い神経の持ち主なのか。
「作りすぎた、ボーロがあります。召し上がりますか？」
そう言いつつも彼はもう準備をしている。私が断らないことはお見通しということか。
「中在家くんって私のことを子どもか何かだと思ってるの」
「まさか」
「……ともあれ中在家くんの作るボーロは絶品だから頂くよ」
何時もは無愛想な顔がほんの少しだけ緩んだような気がした。その顔をみんなにもっと見せれば後輩からも誤解されないのに。まぁ、彼の人柄を知ってしまえば表情が変わらないことも関係ないのだろうけれども。
ふんわり焼き上げられたボーロはほんのり甘くて食べやすい。お昼に食べていたとなると匂いにつられたしんべヱといつも一緒にいる２人がひょっこり顔を出すかもしれない。夜だというのにもっと食べたくなってしまうボーロが憎い。一欠片も残すことなく平らげると彼はまた柔らかな表情をしていた。
「ご馳走様。中在家くんはきっといいお父さんになるよ」
彼の肩が跳ねた。不思議に思って顔を覗き込むと彼の複雑そうな顔が目に入る。そんな表情もするのか、と長い間一緒にいたのに初めて驚いた。
「ごめんね。変なこと言ったかな」
答えは沈黙。彼は私の肩に手を置いたけれども私はその手をそっと掴んで言った。
「もう行くね」
中在家くんはその手を私の方へと伸ばしたけれど、私はそれを振り払う。最後に彼の元へと行く為に。
「答えはすぐそこだ。柳」
彼は最後にそう言った。軽く背中を押されて部屋を出る。そんな彼は誰よりも暖かく、穏やかに見えた。
感じたことがある。
彼はとても情が深いのだ、と。
それは忍者になる為に足枷にしかならないのに彼が最後まで捨てることが出来なかったものだ。
だから最後まで私を守ろうとしてくれていた。
嗚呼、今宵は星がよく見える。
最後、私は彼の部屋へと向かう。
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はたはた(プロフ) - 雅榴さん» 雅榴さん、コメントありがとうございます！とても沢山褒めていただけて嬉しいです^ ^リクエスト承りました！お時間がかかると思いますが必ず書かせていただきます！ (2019年5月11日 16時) (
レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - お初失礼します。他にはない独特の世界観や言葉のセンス等々いつも楽しませて貰っています。女好きのシリーズで土井先生のお話はリク可能でしょうか？もしよろしければご検討ください。無理せず今後も頑張って下さい。 (2019年5月5日 17時) (レス) id: cad46f67b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さえき | 作成日時：2018年8月18日 14時
