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これからだった私と潮江文次郎 ページ22

「知っていたか」
「何を?」
「仙蔵がお前を柳、と呼んでいたこと」

ばちばちとやけに大きくて重い算盤を弾いていた音が止まると潮江くんはごつごつとした手を弄りながら、私に向き直った。

「……事務員さん、ではなく?」
「ああ」

短い肯定は口下手な彼らしい。それにしてもさらさらの髪の毛を持つ彼には一回も名前を呼ばれたことはないのに不思議なものだ。考えを巡らせていると潮江くんはじぃっと此方を見つめている。疑問は増える一方だが、このままでも気まずい。

「そういえばくノ一の子が潮江くんと逢引したら池で寝ることになりそうだって言ってたよ」
「そんなことはしないぞ」
「じゃあ例えば?」
「……忍者の三禁だ」
「そうですか」

くノ一の子の片思いは実りそうにないと苦笑いをすると潮江くんは私が呆れたと思ったのか忍者の三禁のなんたるかを語り始める。はいはいと聞き流していると彼は私が納得したと思ったのかまたやけに大きな音を立てて算盤を弾き始めた。

「仙蔵はな」

ばちばちと鉄がぶつかり合う音がする。その音はいつまで続いていただろう。かなり長い間をおいて彼は独り言のように呟いた。

「お前のことが好きなんだと思う」

あの人がただの事務員の私を?
そんなわけない。

「……幸せになってくれ。そうじゃないと仙蔵も彼奴も報われない」

彼奴、という言葉に高く結わえた茶髪を揺らして優しく微笑む彼の姿がまぶたの裏に浮かんだがそれが自分の勘違いだったことが次の言葉でわかった。

「彼奴とは犬猿の仲なんて言われても一応同級生だからな」

食満くんのことだと分かったのはすぐだった。でも今何故食満くんが出てくるのかが全く分からない。


ねぇ
何で潮江くんは立花くんのことを知っていたの
何で今、食満くんのことが出てきたの
何で私の幸せを願うの


いくつもの質問を投げかけると「一つずつ質問しろ」と彼は苦笑いを浮かべた。

「仙蔵のことはこれでも同室だからな。なんとなくわかるさ」

「彼奴のことはまぁ、そのあれだ。いつも突っかかってくるから話すことも多いとでも言っておく」

なんとも歯切れの悪い返事だ。彼らしくもあるけれども。

「お前についてだがな。みんなお前の幸せを願っていると思うぞ」

何でこの質問の返事だけ妙にはっきりと言うのか。


感じたことがある。
彼は色々なことを間違えている、と。

嗚呼、夕焼けが綺麗だ。

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はたはた(プロフ) - 雅榴さん» 雅榴さん、コメントありがとうございます!とても沢山褒めていただけて嬉しいです^ ^リクエスト承りました!お時間がかかると思いますが必ず書かせていただきます! (2019年5月11日 16時) (レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - お初失礼します。他にはない独特の世界観や言葉のセンス等々いつも楽しませて貰っています。女好きのシリーズで土井先生のお話はリク可能でしょうか?もしよろしければご検討ください。無理せず今後も頑張って下さい。 (2019年5月5日 17時) (レス) id: cad46f67b3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さえき | 作成日時:2018年8月18日 14時

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