海に沈んだ君のふみすき ページ18
「……喜八郎、本当に良いの？」
「良いんです」
「あんなに大事にしていたのに？」
「貴方と一緒にいられなくなるよりずっと良い」
そう言いながらも彼は手に握られたものを離さない。彼は手を離そうとはするけれども中々力を抜くことはしなかった。大事にしていたものなら無理に手放さなくても良いのに。
「なんで捨ててしまうの」
ほんの少しの怒りを含ませて問うと彼はぽつりぽつりと語り出した。
ふみこちゃんであの人たちを殺して
ふみこちゃんであの人たちの穴を掘って
ふみこちゃんであの人たちを埋めた
あの感触をきっと使う度に思い出す
彼はとても自由奔放な人だった。
自分の好きなことや興味のあることには目の色を変えるくせに他のこととなると知らんふりを決め込んでしまうものだから始めの頃は手を焼いたものだ。
彼は身内をとても大切にする人だった。
一度懐に入れてしまうと絶対に離さない。たとえ相手が何をしたとしても。
彼はとても苦しそうな生き方をする人だった。
不器用でとても仲間思いの人。
物事が起こっている方から視線を背けるから何を考えているか理解されづらく、無表情は感情までも分かりづらくして持って生まれた綺麗な顔はより一層不思議な雰囲気を漂わせていた。
「さよなら。ふみこちゃん」
そう言ったのは私か君か。
水がちゃぷんと音を立てて沈んでゆく。私たちはゆらゆらと揺れるそれを形が分からなくなっても影だけになっても見つめていた。
「……仕方なかったんですよ」
優しい嘘で包み込んで君は微笑む。
この微笑みが見られるようになったのはいつからだっただろう。最初は遥か遠くで次は目の前で触れられる距離でそして隣で見ていたその微笑みはそれだけあるだけでもいいと言ってしまいそうになる。
私を見て彼は複雑そうな表情をすると人為的に光を宿しただろう瞳をゆっくりと細めて三日月のように細めて前からそうしていたとしか思えなくなってしまう。でも先程の微笑みとは違うものに違和感を覚える。
「ねぇ、喜八郎」
「大丈夫」
ねぇ、何が大丈夫なの。貴方は一体何を隠したの。
でも私にはそれが分からなくたっていい。どうかお願いだから彼にあの人たちを思い出させないで。８番目だった彼は何にも興味を持っていないようでとても繊細なのだから。
どうか何も思い出さないで。
だからどうか深海で眠っていてね。
海に沈んだ君のふみすき
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はたはた(プロフ) - 雅榴さん» 雅榴さん、コメントありがとうございます！とても沢山褒めていただけて嬉しいです^ ^リクエスト承りました！お時間がかかると思いますが必ず書かせていただきます！ (2019年5月11日 16時) (
レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - お初失礼します。他にはない独特の世界観や言葉のセンス等々いつも楽しませて貰っています。女好きのシリーズで土井先生のお話はリク可能でしょうか？もしよろしければご検討ください。無理せず今後も頑張って下さい。 (2019年5月5日 17時) (レス) id: cad46f67b3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：さえき | 作成日時：2018年8月18日 14時
