☆ ページ13
前世で徳を積むと人間になれるという言い伝えがあるが、もしその言い伝えが本当なのだとしたら私は前世で何をしたと言うのだろう。
そんな疑問をもったのは初めてのことだった。
「竹谷、八左ヱ門」
よりにもよってなんで彼なの。
他の人だったら私だってまだ割り切れた。
「え、竹谷くんがどうかしたの。柳ちゃん」
いけない。仕事の最中だった。
「竹谷くんといえば……生物委員会にこれを届けて欲しいんだ」
渡されたのは虫取り網。事務室に蝶々が入り込んだ時に大活躍した代物だ。
あの時は大変だった。「このままでいいじゃないですか」と言う秀作と蝶々を見ていて秀作の仕事が進まなくなるのを心配した吉野先生がちょっとした言い合いになってしまったのだ。言い合いといっても2人とも穏やかで聞いている私がそんなことでいいのかともやもやしてしまったのを覚えている。
結局、蝶々は虫取り網を振り回していたら難なく捕まえることができて、伊賀崎孫兵くんにあげたんだっけ。珍しい種類だったらしく、伊賀崎くんが飛び上がって喜んでいた。
「ついでにあの時の蝶々を見せてもらおうかな」
「良いねぇ。今なら吉野先生もいないし」
いたずらっ子のような笑顔を浮かべる秀作とうなずき合う。いってきます、と手を振ると笑顔で手を振り返してきたのを見て、私は駆け出した。
ばたばたと足音を立てながら廊下を走る。
こんなの子供の時以来だ。
伊賀崎くんにあの蝶々のことについて聞いてみよう。そして虫取り網を返して事務室に少し遅めに戻る。
あとは竹谷くんに会わなければ落ち込むことも何もない。
考え事をしながら走っていたから気が緩んでいたのだろう。曲がり角で誰かとぶつかった。
「ぅおっ、大丈夫……か」
私はその人の胸の中に飛び込むような体制になっていた。慌てて顔を上げると合わないようにと願っていた相手の顔が目の前にあった。
「竹谷、八左ヱ門くん」
名前を呼んでも返事をしない。そういえば彼は私が見えていないのだ。声すらも届かないのだ。
とても辛くて、とても悲しい。こんなに近くいるのになんで私のことも分からないのかと理不尽な怒りをぶつけてしまいそうになる。
でも何を言ってもこの人には聞こえない。余計に虚しくなるだけなんだ。
彼の手が私の方に触れた。
「貴方が佐伯さんですか?」
それは初めて私に向かって彼が話しかけてくれた時のこと。
40人がお気に入り
「忍たま」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
はたはた(プロフ) - 雅榴さん» 雅榴さん、コメントありがとうございます!とても沢山褒めていただけて嬉しいです^ ^リクエスト承りました!お時間がかかると思いますが必ず書かせていただきます! (2019年5月11日 16時) (レス) id: d037e4ab14 (このIDを非表示/違反報告)
雅榴(プロフ) - お初失礼します。他にはない独特の世界観や言葉のセンス等々いつも楽しませて貰っています。女好きのシリーズで土井先生のお話はリク可能でしょうか?もしよろしければご検討ください。無理せず今後も頑張って下さい。 (2019年5月5日 17時) (レス) id: cad46f67b3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さえき | 作成日時:2018年8月18日 14時