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昨晩のことは、
夢だったのだろうか。
結局私はヒスンの居る
寝室には入れず、
リビングのソファを選んだ。
あんなことがあっては全く眠れず
しばらくぼーっとしていたが、
そういえばヒスンは何処にと
辺りを見回した。
「朝から仕事だったんだった…」
安堵にため息を零し、
クッションを抱きしめ
ソファに深く身体を沈めた。
「キスした、ヒスンさんと…」
薄く開いた恍惚なヒスンの瞳と、
感触さえも鮮明に覚えている。
何せ、こんなこと初めてだったのだから。
思い出すだけで、顔に熱が集まり
羞恥心や戸惑いで頭の中は
もうごちゃごちゃだ。
しかし、覚えていたのは
それだけじゃない。
「ごめん、忘れて…」
静かに吐かれた気の無い台詞。
私を置いて部屋に入る後ろ姿。
少し強引に回された手の感覚も
私を見つめるあの眼差しも、
ヒスンからしておいて、忘れろなんて。
「そんなことできるわけない…」
私はヒスンに弄ばれているのだ。
真に近い言葉を言われれば
ようやくわかった気がする。
ファーストキスがこれほど
虚しく、悲しいものになるなんて。
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事実を知った今晩も、こうして
ヒスンのために夕飯作りに勤しむ事になるのだ。
「何やってんだか」
今日はスーパーで特上のお肉を買ってきた。
思いとは相対して、今日の目玉商品になど
なるから買わないわけにはいかなかったのだ。
以前ヒスンから作って欲しいと
リクエストのあった煮込みハンバーグを
作っている。
ソースの出来栄えは良く、
ヒスンの喜ぶ反応が期待できると思うと
やはりそれは嬉しいのである。
美味しい食事を囲めば、昨夜のことを
一瞬でも忘れて楽しめるのではないかと。
そんな小さな願いを込めて、鍋に蓋を落とした。
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作者名：yori | 作成日時：2022年8月24日 23時
