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hs
予定の無い一日だった。
昼まで泥のように眠り、
起きてからは好きな音楽を聞き、
PCを立ち上げて楽曲作業を行った。
ひとしきり作業を終え背伸びをすると
ふと、時計に目が止まった。
Aは夕方までに帰ってくると言っていた。
まだ時間に余裕がある。
冷蔵庫を開けるとこれまでいつ見ても
空っぽだったそこには作り置きの食材や
調味料が隅々まで詰め込まれている。
「作るか…」
昼はAが作っておいてくれたものを食べた。
仕事の前だというのに
自分の分まで作ってくれる彼女は
なんてできた子なんだと感心する。
ましてはいつもこの後夕飯まで作ってくれるのだ。
今日くらいは気を休めて欲しいと自分なりに
考えてみた結果だった。
「むず…」
包丁を手に取り人参の皮剥きに挑戦したが
うん……
皮って、どこまでが皮なんだ？
全て剥き終わった頃には元の半分くらいの
細さになったそれがまな板の上に横たえていた。
皮の方が量があるように見えるのは、
気のせいだと思いたい。
「Aって、超人だ…」
自分はというと人参一本に対し
三十分を費やしてしまったことで
放心状態になっていた。
「一旦休憩しよう」
そうして、休憩は昼寝に変わり
Aが帰ってきた時には
そんなことを忘れて呑気にテレビを見ていた。
「えっ、ヒスンさん…何これ」
「あっ待って」
台所に入ったAのくすくすと
笑う声に全てを思い出し駆け寄る。
「ヒスンさん。これは、何ですか」
「多分だけど、人参だと思う」
「っふはは、こんなの見たことない。
どうして料理なんかしようと？」
口を手で抑え耐えられないと笑う彼女に
恥ずかしさが込み上げた。
こんな事になるのなら料理なんて
しなければ良かったと。
「うるさいな…」
むすっと口を尖ら睨みつけると
彼女は途端に慌て出す。
「あ、でも。
夕飯作ろうとしてくれたんですよね…
この人参はちゃんと使いますから」
「いいよ…そんなもの」
「作ろうとしてくれた気持ちが嬉しかったです。
ヒスンさんの優しさは伝わってますから
ありがとうございます」
心の中でため息が出る。
そんな優しい笑顔でありがとうなんて
言われたら嬉しくないわけがないんだ。
「今度はちゃんとやるから…」
「約束です」と小指を出した彼女に
たじろぎながらも自分の小指を絡めた。
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作者名：yori | 作成日時：2022年8月24日 23時
