闇 ページ8
――私の父が死んだのは５年前、私が８歳の時でした。
私の父は弁護士で…って、これ、もう話してましたっけ。まあとにかく、そんなわけで、何度か母と一緒に裁判の傍聴をしたり、検事の方と話したりしたことがあったんです。
…そんなある日。その日は傍聴することはできませんでしたが、私は裁判所で父の担当する裁判が終わるのを待っていました。そして、裁判を終えて出てきた父は、なんだか暗い顔をしていました。どうしたのかと私が尋ねると、
「ああ、今日の裁判で敗訴してしまってね…途中まではこちらが有利だったんだが…まさか、検察側があんな証拠品を出して来るとはなぁ」
「あんな証拠品って?」
「検察側に決定的に有利な証拠品が提出されたんだよ。今日の裁判は、ほぼそれが原因で負けてしまったと言ってもいい…渉、父さんちょっと依頼人の人と話してくるから、待ってて」
そんなわけで父を待ってたんですけど、それが長くて長くて…待っているのも暇だと思い、ちょっとだけ探検しようと思いぶらぶらと色んな所を歩いていたんです。
そして、被告人控室の近くの部屋の前を通った時、聞こえてきたんです…その日の裁判の担当検事と、裁判官の声が。部屋の外からでも僅かに聞き取れた、その内容は…
「――裁判官、本日のご協力、感謝いたします」
「まったくだよ。人目を盗んでこの資料を作るのも、大変だったんですよ？」
「でも、そのおかげで、我々は勝訴できたのです。……貴方が今持ってらっしゃる、その捏造証拠品のお陰でね」
…背筋が凍りつきました。裁判の決め手となっていた証拠品は、捏造されたものだったんです…。
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作者名：Lemon | 作成日時：2015年11月5日 1時
