番外編(2) ページ49
｢お風呂、いやなの？｣
こくり。
｢お水、こわいの？｣
こくり。
頷いて、下を向く。連れてこられたのは風呂場だった。それも、家よりもはるかに広い風呂場。
男の子は困ったのか、うーんと唸った。
｢いっしょに入ったら、こわくない？｣
ふるふると首を横に振る。
私はあの日から水が怖くなり、お母さんに風呂を入れられるまで自分から入らなくなった。グラスに入った飲み水が突然怖くなって、落として割ってしまったりもした。
男の子はひたりと私の頬を触って、｢でも入らなきゃ、からだ冷たいよ……｣と心配そうに眉を下げる。
｢風邪ひいちゃうから、やっぱり入ろう？大丈夫、ずっといっしょにいるから！｣
そう言って男の子は自分の服をぽいぽいと脱いで、強引に私の手を引いて風呂場に入る。
｢……っ、！｣
｢よしよし、大丈夫だよ。こわくないよ｣
ぱしゃりとお湯をかけられ、腰を抜かす。声もあげずに泣き出した私の頭を撫でて、男の子は言う。
｢僕が守ってあげるからね｣
ぎゅっと男の子に抱き着いて、目を瞑った。
.
｢とりあえず今日は泊まってもいいって！｣
風呂から上がり、男の子の部屋で座り込んでいた。男の子は、ぱたぱたと廊下を走ってきて嬉しそうに告げる。
男の子の下着を着るわけにもいかず、大きめのシャツを一枚着ただけ。部屋は暖房が効いて温かい。尻尾が動くとお尻が見えそうだから、少し恥ずかしい気もした。
｢今日はいっしょにごはん食べて、いっしょにねようね！｣
ぎゅっと私を抱き寄せる。無言でこくりと頷くと、男の子はまた嬉しそうに笑った。
｢僕はとどろきしょーとだよ。ねこちゃんの名前は？｣
｢…………｣
名前、自分の名前。ちゃんと、自分の口で言わなきゃいけない。
そう分かっているのに、唇が動かない。ここは水の中ではないのだから、口を開いても溺れたりしないのに。
口を開こうとすれば、唇が震える。怖い。今ここに怖いものなんて、ないはずなのに。
｢ねこちゃん、｣
｢……！｣
男の子の顔が視界いっぱいに広がって……ちゅ、と幼いキスをしていた。頬には男の子の両手が添えられていて、片方は温かく、片方は冷たい不思議な手だった。
唇が離れた時にはもう、震えは止まっていた。
｢……ねこみや。猫宮、A｣
男の子はふっと優しい笑顔を私に向けた。
｢しょーとって呼んでね、A｣
｢……しょーと｣
口にした男の子の名前は、十年経ってもそう呼んでいる。
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愛犬は天使です。 - 影猫さん» そうですか...............迷惑なこと言ってすいませんでした。これからも応援してます。 (2018年6月17日 16時) (
レス) id: cf71c5c6e6 (このIDを非表示/違反報告)
影猫(プロフ) - くるり、さん» ご指摘ありがとうございます、完全に二人称視点で書いてました……！右から炎出たら大変なことになりますね。。すごい恥ずかしい間違いしてました、ご指摘感謝ですm(_ _)m (2018年6月16日 20時) (レス) id: 3f1a8429d6 (このIDを非表示/違反報告)
くるり、(プロフ) - 最近の展開にハラハラしながら読ませてもらってます(笑)それでですね、たぶん12-3でエンデヴァーのセリフは｢右を使え｣ではなく｢左を使え｣だと思います。轟くんの炎は左から出るので(･_･) (2018年6月16日 17時) (レス) id: 9048a89fa8 (このIDを非表示/違反報告)
影猫(プロフ) - 愛犬は天使です。さん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けてとても嬉しいのですが、数年前の作品で、私自身完全にジャンル移動しているので、難しいです……。本当に申し訳ございません。 (2018年6月12日 19時) (レス) id: 3f1a8429d6 (このIDを非表示/違反報告)
愛犬は天使です。 - すみません、あの、飼育部屋の更新してくれませんか？あの話大好きで、更新ずっと待ってるんです。お願いします！(土下座) (2018年6月12日 19時) (レス) id: 3074c316a1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：影猫
| 作成日時：2018年5月5日 17時
