9-7▽ ページ17
｢失礼しました｣
｢またお話においでね、猫宮。轟もね｣
昼休みが終わる五分前、保健室を出て自分達の教室に向かった。
焦凍は何も話しかけてこない。私が我儘を言ったせいで、食堂の蕎麦を食べられなかったから怒っているのだろうか。そうだとすれば、早めに謝っておいた方が……
｢A｣
｢！ぁ、えーと……なに？しょーと｣
謝ろうとしたタイミングで名前を呼ばれ、つい反応が遅れてしまった。変な空気を感じる。
何だか気まずい。最近｢気まずい｣と感じることが増えたのは何故だろうか。前はほとんどなかった筈なのに。
｢もしAの母親が、Aを引き取りたいと言い出したらどうする？｣
｢えっ？ど、どうしたの急に……そんなこと言わないと思うけど｣
｢体育祭頑張るんだろ、A。母親に見つけてもらえるかもしれねぇだろ。可能性はゼロじゃない｣
あ、もしかして怖い顔で何かを考えていたのって、これのこと？焦凍もそんなこと考えたりするんだな……。
口に出すと不機嫌そうな顔をされそうなので、少ないボキャブラリーから言葉を探す。
有り得ない話だと思い込んでしまっていて、何が正答なのかよく分からない。
焦凍は私が轟家を出て行くのでは、と気にかけたみたいだ。私は正直出て行くつもりはないけれど、出て行けと言われたら勿論出て行く。でもそれは焦凍に言われたらの話で……
｢A？聞いてんのか｣
｢き、きいてたよ！ちょっと、難しい質問だったから……｣
｢そうか。悪い、この話は忘れてくれ｣
｢いや……んー、えっと……やっぱり“お母さん”っていうのがよく分からなくて。“お父さん”も分かんないや。しょーとのことはよく分かるんだけどね｣
｢……ごめんな、A｣
教室の前の廊下で、ぎゅっと後ろから焦凍に抱き締められた。こんな所じゃ目立ってしまうのに、焦凍は気にもせずにただ黙り込んだ。
ここで言う｢ごめん｣の意味が分からなくて、でも何故か少しだけ苦しいような、悲しいような気持ちになった。
高校生になってから、もやもやすることが増えた。多分大人になってきている証拠なのだろうけど、今はまだ大人になりたくなかった。子供のままでいたいと思ってしまった。
(しょーとも大人になっちゃうのかな……)
焦凍はいつまで私を甘やかしてくれるだろうか。
母親も父親も同級生との接し方もよく知らずに今日まで育ってしまった私は、きっとこのクラス、いやこの学校の生徒の誰よりも子供だ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 566人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
愛犬は天使です。 - 影猫さん» そうですか...............迷惑なこと言ってすいませんでした。これからも応援してます。 (2018年6月17日 16時) (
レス) id: cf71c5c6e6 (このIDを非表示/違反報告)
影猫(プロフ) - くるり、さん» ご指摘ありがとうございます、完全に二人称視点で書いてました……！右から炎出たら大変なことになりますね。。すごい恥ずかしい間違いしてました、ご指摘感謝ですm(_ _)m (2018年6月16日 20時) (レス) id: 3f1a8429d6 (このIDを非表示/違反報告)
くるり、(プロフ) - 最近の展開にハラハラしながら読ませてもらってます(笑)それでですね、たぶん12-3でエンデヴァーのセリフは｢右を使え｣ではなく｢左を使え｣だと思います。轟くんの炎は左から出るので(･_･) (2018年6月16日 17時) (レス) id: 9048a89fa8 (このIDを非表示/違反報告)
影猫(プロフ) - 愛犬は天使です。さん» コメントありがとうございます。そのように言って頂けてとても嬉しいのですが、数年前の作品で、私自身完全にジャンル移動しているので、難しいです……。本当に申し訳ございません。 (2018年6月12日 19時) (レス) id: 3f1a8429d6 (このIDを非表示/違反報告)
愛犬は天使です。 - すみません、あの、飼育部屋の更新してくれませんか？あの話大好きで、更新ずっと待ってるんです。お願いします！(土下座) (2018年6月12日 19時) (レス) id: 3074c316a1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：影猫
| 作成日時：2018年5月5日 17時
