【HQ!!】私は不運な人魚姫なのですか？【西谷夕】

レンゲソウは枯れない。 ページ41

うっすらと開けた目から飛び込んできたのは、眩しいほど真っ白な天井だった。


「蒼!!」


誰かが私に飛びついてきた。


「もう…！本当に心配したのよ！馬鹿ねぇ！どれだけ心配させれば気が済むのよ!!」


「ごめんね、お母さん。」


独特な、けれどなぜか懐かしく感じてしまうアルコールのにおいが鼻を突いた。


病院か。


あんな高さから飛び降りてよく助かったものだと、己の生命力に感心した。


運がよかったのかもしれない。


お母さんを力いっぱいぎゅっと抱きしめてあげたいけど、全身が軋むように痛む。


「だめよ。お医者様はまだ安静にしときなさいっておっしゃってたわ。」


そう言って、お母さんは私の前髪を愛おしそうにふわりとかき上げた。


「神様、こんな私にワンチャンくれたんだね。結構優しいじゃない。」


「え？今何か言った？蒼？」


「ううん。何でもない。」


へらっと笑う私に少し安心したのか、お母さんは座っていた椅子に再び腰かけた。


「心配したのよ。お父さんのところに蒼まで行っちゃったらどうしようかって。」


明らかにやつれた顔を無理やり引きつらせて、お母さんは笑った。


申し訳なさが胸にじわりと広がった。


「あのね、お母さん。」


「ん？なぁに蒼？」


「私ね。長い長い夢を見てたの。」


「そうなの。どんな夢だったの？」


ぼんやりと、鮮やかな茜色が脳裏によみがえる。


「え、っとぉ、ねぇ。…あんまり覚えてないかも。」


「あらそう。ちょっとがっかりね。臨死体験みたいなものだったのかしらね？」


「そうかも。」


「まぁとにかく。蒼が生きててくれて本当によかった。夕くんも心配してたのよ。」


お母さんの優しい眼差しの先に、彼はいた。


私の足元で椅子に座ったまま、ベットに伏せて眠っていた。


いろんな人に迷惑かけたな、私。


「お母さん。」


「ん？」


私が紡いでゆく言葉を待っていてくれるあなたが好き。


どうしようもない娘なのに心配してくれるあなたが好き。


何があっても笑おうと頑張るあなたが好き。


夫を亡くしてもなお、母親としての使命を果たそうと意地を張るあなたが好き。


こんな私を愛してくれるあなたが好き。


「ありがとう。」


「こちらこそ、私にぬくもりをくれてありがとう。」


何も言えなかった。


計り知れない優しさに、私は何も言えなかった。

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