【HQ!!】私は不運な人魚姫なのですか？【西谷夕】

ずっと探してた。 ページ40

「俺じゃ、ダメなのか？」


私の手を取り、西谷くんは問う。


「俺は蒼の幼馴染で、岡内なんかよりもずっと昔っから蒼のことを見てきた。


岡内なんかよりもずっとずっと昔っから、蒼のことが大好きだった。


すれ違う想いなんだと知ってもなお、蒼のことが大好きだった。


蒼が幸せでいてくれればそれでよかった。


なのにアイツは、蒼を裏切って悲しませた。


知らないうちに、蒼から勇気も希望も奪っていったアイツが許せなかった。


何もできなかった自分が許せなかった。


殺意にも似た感情を覚えた。


けど、蒼はそんなこと望んでないだろうと思った。


だから俺は、今できる精一杯のことをする。」


後悔と決意と愛情と。


西谷くんが言ったセリフを自然と思い出す。


「童話の人魚姫、知ってるか？」


「あれさ、人魚姫が一番可哀そうに見えるじゃん？」


「あの話で一番悲しいの、何も知らぬまま愛する恋人を無くしちまった王子様だと思うんだよな。」


やっとわかった。こんな変な能力なくったって。


西谷くんの抱える想い。全部じゃなくていい。ほんのちょっとでいい。


西谷くんのあたたかみはいったいどこから来てるのかが、やっとわかった。


やっとわかった。自分の素直な気持ちが。


こんな変な能力でも絶対に見ることのできない自分の本音。


なぜこんな複雑な迷路に迷い込んでしまったのかが、やっとわかった。


「な？帰ろ？蒼の母さん泣き疲れてたぞ。」


「ありがとう。ありがとう西谷くん。本当にありがとう･･･。」


ぼろぼろと涙が次から次へとこぼれ落ちた。


悲しくなんかない。これはいわゆるうれし泣き。


「やめろ。そんな言われたら照れる。」


耳を赤く染めて、彼は怒った。


「いいじゃねぇか。みんなに愛されて。」





やっとわかった。



私は意気地なしの大馬鹿者だったってこと。


間違った勇気を求めてしまっていたこと。


自分は、愛されていたということ。





「夕、大好き。」


「俺も。」


心の中を探らなくたって、ちゃんと伝わってくる。


たった一言でいい。


私は幸せ者だ。


夕に抱きしめられた私は、いつだって愛されていた。




景色が遠のく。


もう私たちは、何も言葉を交わそうとしなかった。


どこからともなく来た眠気が襲ってくる。


夕のあたたかさだけがいつまでもいつまでも、残っていた。

レンゲソウは枯れない。→←満開のカキツバタ。

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