憧れか、恋か【三ツ谷隆】 (ページ3)

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「ありがとう。」

昼休みの終わり。
三ツ谷くんは静かに立ち上がった。

私と彼の10分間は跡形もなく消えてしまったのである。

扉を開けた姿を見て目を伏せる。

私にとって支柱である彼は、私のことをただの石ころとでも思っているのだろう。
弄ばれているわけでも、馬鹿にされているわけでもない。

ただ、彼の純粋さが私を酷く痛みつけるだけなのだ。

「...Aさん？行かないの。」

扉を開けて待ってくれている三ツ谷くんの声にハッとして、ようやく動き出す。

「私、三ツ谷くんのこと知りたい。」

何も知らない彼自身を。

「知りたいって....じゃあ、帰ってからだと時間ないから放課後にまた。」

消えた彼の跡を追うように私も出た。

勝手になんだかよく分からない感情を押し付けているような日々。
そんな毎日とはもう会えなくなるが、それは私にとって大きな一歩となるのだろう。

ありえないはずだった彼との下校は、私のたった一言で変わった。

それは喜びと共に私の意気地なさを余計に感じさせた。

あっという間に自分クラスの友人たちの輪に入ってしまった三ツ谷くんを横目に通り過ぎる。

この人、さっきまで私といたの。

そんな独り言を心の中で溶かしながら忙しなく移動する人たちを見て歩いた。
そして、花ちゃんの机に近寄って言った。

「三ツ谷くんは、やっぱり花ちゃんみたいに可愛い子が似合うよね。」

私は卑怯で狡い奴なのだ。