憧れか、恋か【三ツ谷隆】 (ページ2)

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バスでの出来事から3日。

花ちゃんが今日もまた三ツ谷くんのところについてきて欲しいと手を引っ張った。
二人が付き合うのは時間の問題。

そう言われていることは嫌でも私の耳に入ってきた。

「いいよ。」

慣れたように動く自分の口を恨みながら今日も自分史上最大に近い距離で三ツ谷くんのそばに立つ。

あと数10cmで花ちゃんよりも近いのに、なんてさらさらでキラキラと光を吸収する彼女の髪を見つめた。

でも。

私は、彼と3cmくらいまで近づいたことがある。
これは素敵な思い出となるのだろう。

「A！社会の教科書持ってね？」

教室の奥から声が聞こえ、パッと顔を上げた。

そして、三ツ谷くんと、目が合った。

石像になったような私は口をぱくぱくさせても声は出なかった。
それほど彼が私にとって神秘的で、あたたかくて、支柱なのだ。

「.....俺、あるよ。机漁っていいから。」

小動物のように上を見上げるようにして頬を赤らめる花ちゃんと、透き通る白さの三ツ谷くん。

話は中断され、消えた。

「Aさん、国語得意って聞いたんだけどほんと？」

薄くて儚げなその口から私の名前呼ばれることなんて生涯ないと思っていた。
こくこくと頷くと、廊下に出た彼に手招きをされた。

「ここじゃうるさいから、ちょっと図書室に来てよ。この前テストで分からないとこあってさ、」

スタスタと行ってしまう三ツ谷くんの後に続くと、花ちゃんは先ほどとは違ったように顔を真っ赤にさせていた。
少しの涙目と一緒に。

彼は残酷だ。

「どうして、話をやめたの。」

図書室に着くなり発してしまった。
それは驚きによって石化魔法が解けてしまったからである。

三ツ谷くんは困ったように笑う。

「俺、あの子のこと好きじゃないから、噂話ってやつに振り回されたくなくて。」

友達なのにごめん、と彼はテストに出てきた小説を探しているようだった。

たった5cmしか変わらない背の私たちは何も発展しない。
周りからも何も言われない。

それらを知った上で彼はまた3cmの距離にしたのだろうか。
隣の席に座ってきた三ツ谷くんの横顔は憎らしいほどに綺麗だった。