1 少年曰く、瞬間移動とは ページ2
「瞬間…移動……？」
幹部たちの開いた口が塞がらない。
当事者であるAはさくさくと話を進めようとする。
「うん。えっと、空間って言うのかな？大体のところには数字と変な形の文字があって、行きたい場所を強く強く想像すると、その数字が見えるんだ」
「数字がある…ってことは空間座標みたいなものっすかね」
「ざひょー…？」
「ああいや、気にせんでください。続きをどうぞ」
「…それから、その数字と文字をもっと強く見つめるとぴかって光るの。一番眩しくなった時にそれを思い浮かべると、行きたかった場所に瞬間移動できる……ってこと」
ひとらんらん、分かる？とAは問いかける。こてんと首を傾げたその可愛らしさに負傷者が若干一名。
確認をとられたひとらんらんは無言で頷き、話の続きを促した。
「最初に俺は、リンゴをとってた。森の中に柵があってね、その中にたくさん木が生えてる。この季節はリンゴがおいしいから、他の子の分も一緒に採って帰ろうとして……帰ろうとした、んだけど……」
「ここに来ちゃった、ってこと？」
「うん」
涙目になったAに近づこうとしたショッピがコネシマに制されるのを横目に、ひとらんらんは考える。
座標を選択して瞬間移動するというならば、Aがここに来てしまったのはそれを間違えて思い浮かべた可能性が高い。
「でもそれなら、またその数字とかと森の景色思い浮かべれば帰れるんとちゃう？」
「…できない」
ゾムの質問にAは力無く首を横に振った。
「何回もやってるのに、数字も文字も見えない」
「スケールのでかい迷子やな…」
「…それに、帰っても何も無いかもしれない」
「どういうこと？」
「前に一回、知らない間に瞬間移動してたことがあるんだけど、その時は戻ろうとした時に周りの木とかが全部枯れたの」
「無意識下での瞬間移動も出来るんか…」
「とんだ瞬間移動体質やな」
「下手すると、ここも何か大変なことになるかもってこと？」
Aは頷く。
「でも木が枯れたり建物ちょっと崩れるくらいならなんとか出来るやろ、俺ら。早く帰してあげた方がええんやない？」
「帰すんですか」
「突然どうしたんショッピ君」
「いやだってよく見てくださいよ、泣いてますよAちゃん」
「さっきも言うたけどコイツたぶん男やぞ」
「何はともあれ話を聞くべきですよ。泣いてる子供を放っておく訳にはいきません」
「いつになく真剣な顔やな…」
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作者名：うるち米 | 作成日時：2022年8月13日 16時
