7 ページ8
◇
むかしむかしのおはなし。
彼女の封じられた記憶。彼らが封じた物語___
「精市くんと桜見に行ってくる!!」
「まだ冷えますから、そんな薄着で出かけないでくださいお嬢様!」
中学三年生になったばかりのAを、幸村精市は進級祝いも兼ねて連れ出した。
「おわ〜〜キレ〜〜だねぇ」
「はは、Aはどの花を見てもキレイだね」
「う……語彙力がなくてごめん……」
「ううん、俺もキレイだと思うし」
精市はにこにこしながら、ゆるゆると波打つ髪を揺らした。
「ね、来年こうして桜が咲いたら、Aは俺のお嫁さんになるんだよ」
「え……」
急な切り出しに、彼女は絶句してしまった。彼は予想していた通りだ、とでも言うように優艶に笑んで、彼女を引き寄せる。
「どうしたの?分かっていなかった?もう、そこまで来てる」
「あ、……精市、くん……」
「きみはあと、12か月もしたら俺の手中におさまるんだよ。ねえ、どう思う?」
抑揚のない落ち着いた声で、ひたひたと責められる。あたりが、真っ暗になったような気がした。
「せ、いちくん……」
「うん?どうしたの、A」
「み、えない……どこ……」
「……かわいそうに、恐ろしいね……大丈夫、俺が、きみをたすけてあげるから……だから、俺だけにすがって、ね」
「せ、いちくん……?」
声しか聞こえない。
何も見えないし、触れない。虚空の中に放り込まれたみたいに………
20人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
におー - 続き気になるッス!! (2020年10月9日 6時) (レス) id: 77a058bc3a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:百衣 | 作成日時:2020年10月8日 17時