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◇
「精市、くん……」
「うん、俺はここ。わかるね」
「せ、いちくん……」
恐る恐る手を伸ばせば、柔らかい肌の感触にぶつかった。するりと指を絡め取られる。
「怖い?」
「こ、わい……」
「そう、かわいそうに」
感じるのは彼の声と、彼の熱だけ。
見えない手に引き寄せられて、彼の腕の中にすっぽりおさまった。額に吐息がかかる感覚。近い。
「ふふ、うん、かわいい……俺だけ、俺だけしかいないんだ、きみには」
「……え……」
「うん……そう、俺だけにすがって。どこにも逃がさない。……きみは、"俺の"だね」
独り言のようにわたしの耳もとでそう囁く彼は、どこか恍惚としていた。
「ねえA。キス、してくれる?」
「せ、いちくん」
「A、逃げられないよ。俺の願いを叶えてくれないなら、家には帰してあげられない」
「え……」
「ね、俺の言うこと聞けるね。じっとしてればすぐ終わる。本当は、……きみからのが欲しかったけど」
その冷たい指で、顎を持ち上げられる。反射的に目を瞑った。呪いみたいに動けなかった。
わたしのかわいた唇に、彼の儚い熱が下りる。
……哀しい温度だった。
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におー - 続き気になるッス!! (2020年10月9日 6時) (レス) id: 77a058bc3a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:百衣 | 作成日時:2020年10月8日 17時