56、隠し事 ページ8
十分も経たずにAの自室に戻ってきた二人。少しだけ息が上がっているAは刀を置く。そして一安心したように足からがくんと力が抜けた。
咄嗟に支えながらイゾウは不安げにAを抱え直す。
「前倒れたとき程じゃ無さそうだが……平気か」
「今回は雪涼が溜め込んでた冷気を放っただけだから平気……だけど、少し疲れてしまって」
大人しくベッドに降ろされながら、Aはちらりと愛刀に目を向ける。
「一番最初に、勝手に出てくる冷気を抑えたでしょ。あれ以来、勝手に冷気は出すことはなくなったんだけど……なんていうか、普段雪を使う分とは別に、放出しない限り冷気を段々と溜めていくらしくて……」
たまに少しずつ吐き出させてはいたんだけど、刀にも気持ちがあるのか最近コントロールの精度が悪くてね。大規模に使わせられてよかった。
そう続けて話して、Aは刀から目を離した。
「流石にあれだけ人目につくところで倒れはしないだろう、と踏んで止めなかったが、無理はするなよ」
Aを寝かせたベッドにイゾウも腰を落とす。あまり心配させるものではないな、と考えながらも宝珠のことも足のことも話していない自分に、心のなかで失笑した。
「善処する」
聞かれたら話す。聞かれなかったら隠す。それだけだ。どうせ一生バレないことはない。
オヤジの病気を完治させて宝珠が割れたとき、これ以上に足が動かしづらくなるのならそれはきっと隠せるようなものでもない。
次のときに何を課せられるのかはまだわからないが。
宙を、光を反射しながら宝珠がくるくる舞っている。
(……、……?)
ふと、光の具合がおかしい気がして体を起こした。片手を宝珠に差し出すと、手のひらにすっぽり収まって静かになる。
「どうかしたのか?」
「んー……」
曖昧な返事をしながら、宝珠を落とさないように両手で抱えつつ回す。
違和感の正体はほんの僅かなものだった。
「欠けてる」
小さなヒビ割れと、僅かな欠け。いつから欠けていたのだろうか。確実にオヤジの病気が治療されている証ではあるのだろうが。
Aの手元を覗きこんで、イゾウはなんとも言えない顔をしていた。
「欠けてるな。その宝珠、サッチを治してるときにもあったが、……今出ている意味はなんだ」
誰を治してる?そう言いたげな目に、Aは宝珠を離しながら一言呟いた。
「何処まで聞く?」
聞かれたら話す。それだけだ。
215人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ