67、待ち人 ページ19
落ちたシャツを拾おうと手を伸ばす。
しかし、Aが掴む寸前でシャツはAと逆方向に動いて上に持ち上がった。
そのまま視線を上げると、こちらを見下ろす水着のサッチの姿。
「いい眺め、…い"ッ！！」
「何やってんだよい」
Aを見下ろすサッチの後頭部に、マルコの拳骨が閃いた。蹴りじゃなかっただけマシに見えるが痛そうだ。
「早かったね」
「そりゃこっちのセリフだよい。おまえが一緒に行ってるようだったから、心配せずにすんだがねい」
ひょいとAは肩を竦める。別に感謝される筋合いはない。家族として当たり前だ。
サッチが手渡してくれたシャツを畳みながら彼女は明るく笑った。
「このくらい御安い御用だよ。見てるの楽しかったし。ナースたち、華があって可愛いから」
「うわA、わかるぞそれ」
「んー、サッチ隊長の同意はいらないかな」
「さりげなくひどい」
軽口を叩き合いながら、ナースたちが楽しそうにビーチバレーをしているのを頬杖を付いてAは楽しそうに眺めている。
「きみたち二人は遊びに行かないの？」
突っ立ったままのマルコとサッチを見上げ、海の方を指差す。
各々はしゃいでいることだし、隊長でも多少羽目を外したってバチは当たらないと思うが。エースなんてもう遊んでいるし。
「おれはいいよい。能力者だしねい」
「エース隊長見なよ、マルコ隊長。サーフィンしてるよ、彼」
「アイツは……例えにならねェだろい」
「そう、……かも」
話を振ったくせに思わず納得してしまって、改めてまじまじとエースを見る。浮き輪付けてサーフボードに乗ってノリノリのウキウキで波乗りしている様子は、度胸があるというより命知らずにまで見える。エースの近くには時折ナミュールの姿が見え隠れしていて、安全なことがわかりはした。やろうとは思わない。
「ま、このつまんねェこと言ってるコイツはおれが連れてくけど、そう言うAは？行かないのか」
マルコを連れて行く気満々のサッチがAにそう問いかける。
Aはいつも通りの読めない笑みを浮かべてひらひらと手を振った。
「勧めといてだけど、僕はいいかな。もうちょっとだけ見てる」
その様子に、マルコもサッチも何かを察して特にそれ以上誘うことなく離れる。
本人は気づいていないが、Aは誰かを待っている表情をしていた。
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