64、一層深く ページ16
後処理が一段落するまで付き合ってから、Aは一人でモビーに戻った。イゾウは見回りの続き、Aは起きたことの報告である。
甲板に降り立って大きな椅子に腰かけるオヤジを見上げた。
「どうしたァ。何かあったみてェだが」
「さっきイゾウと僕がチンピラに絡まれたんだ。それで後処理中に調べてたら、どうやらこの島で人身売買しようとしてたようで……動いてた期間はここ二週間程、準備段階らしいからまだ誰も売られてないとは思う。拠点を割り次第救出に行くよ」
伝えなければいけない事項は報告して、返事を待つ。オヤジは険しい顔で頷いた。
「頼んだぞ。白ひげ海賊団のナワバリに手ェ出したことを後悔させてやれ」
「勿論。じゃあまた見回りに戻るね。アジトも早めに割り出しとくよ」
羽を出し、宙にふわりと飛び上がる。一度くるりとオヤジの上を旋回してから、僕は再びイゾウの元へと向かった。
最近あまりオヤジと話していなかったけど、確かに体調が良くなっているようだ。付けられていた医療器具があからさまに減っていた。
(宝珠のヒビもどんどん深くなってきてる。順調みたいで何より)
ぎらつく太陽を背に町の上空を飛びながら、Aは赤い宝珠を弄ぶ。日に透かせば宝石のように美しく輝くさまは、まるでルビーを連想させる。
言い方を変えれば、この宝珠は僕の命の一部そのものでもある。綺麗ならそれはそれで嬉しいことだ。
「イゾウ、報告してきたよ」
見慣れた後ろ姿を見つけて声をかける。振り向いた彼が手を差し出してきて、僕は苦笑してその手を取って降り立った。
そのまま繋がれる手を、Aは何も言わずに握り返す。
「アジトの割り出しは時間かかりそう？」
「いや、多分かからない。明日中には全部終わってるだろう」
「ならいいけど。……僕はともかく、イゾウに挑むなんて勇気あるよね」
僕は手配書が出ていないから知られていなくて当たり前だが、イゾウは白ひげ海賊団の隊長だ。少なからず知名度がある。手配書だって。
「Aがいたから油断してたんだろ」
「例え僕が戦えなくても、女一人守れないほどイゾウは弱くないけどなぁ」
二人で見回りを続けながら、そんな気の抜けた会話をした。
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