61、その程度 ページ13
翌朝。船上から宴会場と化していた港を覗き込んだ。
硬い石の地面に何人もの男たちが寝転び、酒樽も酒瓶もごろごろ転がっている有り様は中々に眉を潜めるものだった。
「惨状だね」
「違いないな」
隣で同じく港を眺めながら頷くイゾウ。
酒の匂いの立ち込める港に降り、男たちを避けながらAとイゾウは街のほうへと進む。
当たり障りなく言えば朝の散歩、正直に言えば街の様子見だ。何か不備はないか、シマのルールを破っている輩はいないか、の。
「さて仕事だ仕事……手分けする？」
「しない。一人にして怪我でもされるほうが嫌だ」
「怪我しないと思うけどなぁ」
過保護なイゾウに苦笑いを向けて、Aはさっさと歩き出した。
まだ朝だが、日が昇って昼になれば今よりもっと気温は上がるし暑くなる。その前に終わらせたいところだ。
・
そして二時間後。
まだ日は昇りきっていないが、気温が上がり段々と暑さが際立ってきたころ。問題が発生していた。
街中で堂々と僕とイゾウを囲んだ輩たち。数は十は軽く越えていそうだ。
島民たちはすっかり怯えて家の中に引っ込んでいったので、建物さえ破壊しなければ暴れても良さげだろう。
「ノコノコ二人なんかで散歩してたアンタらが悪いんだぜ。俺らの邪魔なんだよ白ひげ海賊団は！」
どうやら、ルールを破っているらしかった。何をやっているかは定かではないが、白ひげ海賊団のシマの御法度はクスリと奴 隷だ。どちらかを扱っているのだろう。そういう情報は上がっていなかったように思うが、ルールを破りたてなのか、それともこれから破る予定なのか。
「全員気絶でいいのかな？」
「あぁ。程々にな」
背中合わせになって僕らは互いに不敵な笑みを浮かべる。得物をその手に、二人は多勢をものともせずに構えた。この程度に負けるお互いではない。
「さぁ、最初にやられたいのは誰だ」
気迫に短く悲鳴を漏らしながら何人かが後退りした。所詮その程度の輩である。Aもイゾウも、構えたままその場を動かない。あくまでもかかってきた輩から相手になってやる、という意思表示だった。かといって逃がす気はさらさらない。誰かが逃げれば、逃げた輩から狙うまで。
囲んで有利なはずなのに、微塵も焦りを感じさせない二人に囲んだ側の焦るが募る。
やるしかない状況に今更ながら怯んでしまう気持ちを奮い立たせて、声を上げて各々武器を振り上げた。
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