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コンクール前の。 ページ1
コンクールを目前に控えた頃の美術部の部室というのは油絵具の臭いでいっぱいいっぱいで、深呼吸しようにも深呼吸が出来ないくらいの息苦しさだった。
十一月の大きなコンクールに向けて部員は死ぬくらいの勢いでキャンバスと向かい合っている。
締切まで残り僅か。私も急いで作品を仕上げる。
絵の具のウルトラマリンを絞り出して、油で溶かして、真っ白な世界に色をつけていく。どうしてもっと早い頃から手をつけていなかったのか。今更いらいらしてしまう。
しかしそれ以上に、私以上に焦りを感じるべき存在が私の隣にはいた。
道栄 志遠(みちえ しおん)。同じ美術部の男子部員だ。
志遠は大きなキャンバスをぼんやり見つめながら利き手の左手で木炭をずっといじってる。彼のキャンバスは私以上に真っ白だった。
｢志遠、まだ描かないの？｣
｢……んー｣
普段物静かなヤツは、キャンバスを目の前にするとさらに静かになる。しかしそれは真面目に作品について考えているというわけでもなく、ただただ返事が億劫になるだけのようだ。
白を見つめる双眸は鋭く、右手で触れている顎はゆるやかな曲線を描いている。卒業した先輩はヤツのことを美術部の王子とかなんとか言ってた。けれどヤツは自分の見た目を一切気にしてないようで、思うがままの姿を保っている。
私はそんな彼のことが、幼稚園の頃から大好きだった。
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作者名：ゴリラ | 作成日時：2018年9月13日 23時
