検索窓
今日:2 hit、昨日:4 hit、合計:4,764 hit

第8話 鈍感 ページ9

「…難儀じゃのぅ」
「はい? いきなりなんですか? (ねえ)様」

 太宰が幹部になった翌日。
 抗争の生存者から拷問で情報を聞き出した後に、休憩と称した二人だけの茶会の最中、直属の上司が発した言葉だ。

「中也が、お主を『綺麗』と云ったのは、月ではないわ」
「てっきり、そうだと思ったので。違うのか…」

 返答しながら、『何に対して綺麗だと云ったのか』。その一点だけが、疑問符として脳内をぐるぐると巡っていく。

「A。『月が綺麗』には、別の意味もあると、(わっち)は教えたのぅ?」
「はい。『あなたが好きです』でしたよね? (おぼ)えていますが、彼の性格ならば、異性に告白する場合、遠回しではなく、率直な表現を使うと思いますし、確実にあたしの事ではありません」

 (しか)し、断言した自分の発言に対して、姐様は、溜め息をつく代わりに頭を抱える仕草をした。まるで、『察しの悪い子だ』と暗に云われている気もしたが、人の気持ちに(うと)いのは事実だし、それは貧民街に居た時から変わらない。

「憶えておるなら、それで善いわ。ところで、去年手渡した香り付きの口紅を塗った、周囲の反応は如何(どう)じゃった?」
「それでしたら、一人だけ。中也の視線が、唇の方に向いていました。…それが、何か?」

 今度は、姐様だけでなく、後ろに控える部下も、黒い偏光眼鏡(サングラス)越しに見合わせていた。

(いや)。Aが気にする事ではない」
「…そうですか」

 個人的に、紅茶全般味が独特なので好みではないが、姐様のお勧めの茶葉とあらば、理由をつけて断る訳にはいかず、再び口に運ぶ。

「ところで、中也の事は如何思うえ? この際じゃ。全て話せ」
「如何、と言われましても…。…列挙するなら、見目。声。立ち振舞い。兄貴肌の性格。ファッションセンスを含めた格好良さは、昔から一切変わってませんし、あとは…、(たま)に見せる無邪気な笑顔が、本当に可愛(かわい)らしくて、毎回、目撃する(たび)に癒されています。(ちまた)の表現を借りるなら、存在そのものが『尊い』に当てはまるのかな? ()(かく)、彼は…。中原中也は、あたしにとって、生き甲斐(がい)を与えてくれる人間なんです」

 口止めする必要もないので、そのまま茶菓子を()んだ。

「一応訊く。恋愛感情は?」
「皆無です」

続く  (更新停止中) お気に入り登録で更新通知を受け取ろう

←第7話 お姫様抱っこ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (14 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
21人がお気に入り
設定タグ:文豪ストレイドッグス , 中原中也 , イケメン女子   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:竜胆 | 作成日時:2019年7月10日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。