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第3話 現状説明 ページ4

「……ゥう?」
「Aッ!」

 遠くで誰かが話し合っているのが聞こえた。それは段々と近くなり、自分の傍らで語らっているのだと推測する。
 ゆっくり目を覚ますと、左隣に涙を浮かべる中也が。右隣に、知人のレベッカさんが居た。

「…中也?」
「おゥ。どうした?」

 腹に力を入れて声帯を震わせ、(のど)から絞り出し、酸素ボンベに接続されたマスク越しに聞こえた自分の声は、予想以上に小さく、老婆のように(かす)れていた。
 首を傾ける彼に対して、腕を上げて触れようとしたが、何かを(つか)む感覚に、脳内で疑問符が浮かぶ。(わず)かに眉を寄せたのが(わか)って、彼が、自分の手と繋いでいる事を示し、無言で視界に入れてきた。その時になって、明らかに前より()せた腕を目の当たりにし、医療設備が整った場所に居て、自分が未だ生きている事から、ポートマフィアの元に下ったと推測できた。

「…どのくらい寝てた?」
「今日で、1週間になる」
「そうか。仲間は?」
「…生かしてある」
「……そう。あたしの処遇は?」
「仕事に慣れるまで、姐さんの補佐についてもらう事になった。その後は、俺にも判らねェ」
「姐さん?」
「俺の上司だ。今日はもう遅ェから、明日連れて来てやる」
「わかった」

 病院に入院した経験も、いつ着替えたのかも記憶に無く、薄っぺらい服を1枚着ているだけで心(もと)ない状態だ。それでも、何も羽織らないよりはマシなので、取り敢えず患者服(これ)で我慢しよう。
 そう思った後、右隣で何かを書いている医師に、横たわった姿勢で挨拶の言葉をかけた。

「お久し振りです。レベッカさん」
「久しぶりね、A。海外出張中に大変な目に遭ってるなんて知らなかったわ。明日になれば、点滴とマスクを外せるから、その時に身綺麗にして林坊に会いましょうか」
「はい」

 珍しいと思える翡翠(ひすい)色の瞳を細めたかと思えば、優しく微笑みながら、黒髪をくしゃりと()でられて、『仮眠室で休む』と一言告げて退室し、引き戸が閉ざされて、医務室に少年少女が取り残された。

「そういえば、さっき中也に云い忘れてたんだけどさ」
「ん?」
「その服と帽子、似合ってる。男前が増して、格好良いよ。流石(さすが)、二枚目だな」
「だろ!?」

 思った通りに言葉を発したが、返された中也の満面の笑顔に対して、胸が締め付けられる奇妙な感覚に陥った。

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設定タグ:文豪ストレイドッグス , 中原中也 , イケメン女子   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:竜胆 | 作成日時:2019年7月10日 1時

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