若し、あなたに恋をしても《中原中也》 (ページ3)

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第２話　主治医ページ3

「誰だ、手前(テメェ)!!」
「初めまして。林坊(りんぼう)に。…ああ。貴方達のボスに頼まれて、今日から正式にその子の医者になる、レベッカ・フォーサイスです。よろしくね」

　色素の薄い金の髪に、緑色の瞳を持った美人の女性が、俺の後方に立っていた。
　医者なのに、白衣を着ていないその人の手を、俺は恐る恐る握った。すると、彼女は、優しく握り返して微笑み、挨拶のために脱帽した俺の頭を撫(な)でたかと思えば、足元に重たい鞄を置き、丁度中身が無くなった点滴を、持参した物と手早く交換していく。

「心配しなくて大丈夫よ。林坊に渡しておいた薬の効果が出てるし、あとは、この点滴に変えれば、１時間で目覚めるわ」
「本当か!?」
「医者が嘘云ってどうするのよ？」

　快活に笑う美人に対して、妙な既視感を覚えても、それがなんなのか判らない。

「そういえば、貴方のお名前。まだ聞いてなかったわね」
「中原中也です」
「良い名前ね。中也君。Aとは、仲が良いの？」
「……多分、良いほうだと思います」

　女性の質問を受けて、握り返される事の無いAの手と、それを握り続けている自分の手を茫然(ぼうぜん)と見つめた儘(まま)、思った言葉を口に出していた。

「レベッカさんは、Aの事、知ってるンですか？」

　彼女は、１度頷(うなず)いた後は、暫(しばら)く診察に集中する。途中、Aに背中を向けるように指示されて、素直に従った時、俺に確認を求めてきた。

「以前、Aが倒れた時は、いつ？」
「……確か、２週間前だ。愛飲してる市販の栄養ドリンクが売り切れて、抗争と仲間の世話とかも重なって、最終的にぶっ倒れた。あン時ァ、３日くらい熱が引かなかったな」
「そうなんだ。言ってくれて、ありがとう。…はい。もう、此方(こっち)向いていいわよ」

　そう云われて、きぃ、と背もたれの無い丸椅子を軋(きし)ませて、体毎(ごと)反転させ、寝台に横たわるAの方向に向き直る。

「あ。Aが持ってたモンは、俺ン家(ち)に全部あるぜ。ドリンク入りの段ボールも、一緒にな」
「その箱を受け取ったのは、いつ？」
「10日前だ」
「賞味期限とか大丈夫かしら？」
「俺に云っても判ンねェよ」
「そうよね。ごめんなさい」
「…否(いや)。謝られても困る」

　苦笑を向けられたが、そこからは、診察が本格的に忙しくなり、俺は、目覚めるのをただ待つだけになった。