叶わない恋 《ベニマル》

第44話　もしもの話 ページ46

「今回のお題は前回に引き続き、『もしも』の話だ！」
「いや。俺、前回どころか今回初参加なんだが……」

　酔いが回ったグルーシスに冷静な意見を述べるヨウムだが、全く聞いちゃいない。まぁ、俺もだが。
　俺は全く酔う気配が無い爺の横で、ゴブイチ特製炙った三種類の魚介類を肴(さかな)に、行儀は悪いが指先で交互につまんで舌鼓を打っては、その度に酒を温めたアツカンを少しずつ煽っていく。

「うん。美味(うま)い。ゴブイチが作る肴は外れが無いな」
「若の仰(おっしゃ)る通りですな。寝酒にしては豪華ですじゃ」

　しかし、俺の向かいの席に座しているソウエイは、肴など目もくれず、ひたすら酒のみを消費していた。その量は、俺より五本多く卓上に転がっているトックリ。腐れ縁の微妙な変化に気づき、彼が上機嫌だとわかった。

「ご機嫌だな。なんかあったのか？」
「…あったが、お前には言わん」
「そうか」

　適当に受け答えをして、再び肴をつまむ。

「じゃあ、もしも、Aさんが人間の冒険者だったら？ ってのはどうよ？」

　ヨウムの仮の話に、俺とソウエイ二人の動きが一瞬止まり、彼を睨みつけて反応すると笑顔が引きつった。そこに、グルーシスがひらりと手を振る。

「お二人さん、落ち着いてくれよ。さっきも言っただろ。もしもの話だって」
「ああ、悪い。肴が上手くて、話聞いてなかった」
「そ、そうか」

　そこで、冒険者のカバル達と、今や英雄一行になったヨウムの二通りを考え、思いつくまま発言した。

「……。カバルと一緒だったら、彼らの騒がしさに苦労しながら先陣を切る役割で、俺達にも友好的。ヨウムと一緒だったら、人間を信用しないが、魔物は信頼する人だと思う」
「なんでそう言いきれるんだ？」
「俺の口から詳細は言えないが、Aの言動から推測して導き出した答えだな」

　この回答にソウエイは肩を揺らして笑い、爺は静かに微笑み、周囲の男達は目を細めて、ほくそ笑んでいる。

「じゃあ、人間のAさんが、一番仲が良くなりそうな魔物は？」
「愚問だな。鬼人(キジン)族だ」
「へぇ。その理由は？」
「そこまでじゃ。知りたいのなら、直接Aに聞きなされ」

　口を滑らせかけた俺の顔。正確には、その下半分を爺に皺だらけの手で塞がれた。残念がる人間達は酒を呑み直し、爺は、俺に思念伝達で話した。

《若。これ以上の情報漏洩は、Aの信頼を完全に失いますぞ》

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