叶わない恋 《ベニマル》

第41話　ミュウラン ページ43

「久し振りだな。Aさん」
「お元気そうで何よりです。ヨウムさん」

　久し振りに魔都に顔を出した英雄一行は、前回と変わっていく街を見て回っては、顔見知りの魔物に一人一人挨拶をしているらしい。

「アンタが呆けているところなんて初めて見たけど、なんかあったのか？」
「……まァ。…色々と」
「男か？」
「なぜ判る!?」
「勘」

　当然と言わんばかりに胸を張る人間に軽く一発殴ってやりたい衝動に駆られた時、黒頭巾を被った女性が視界に入った。

「そちらの女性は？」
「ああ。最近、一団に加わった魔導師(ウィザード)のミュウランだ」
「初めまして、ミュウランさん。リムル様直属の護衛をしている、Aと申します。どうぞお見知り置きを」
「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」

　ごく自然な流れで握手に持ち込み、接触。
　一見、普通の女性。しかし、この会話と彼女が纏う雰囲気で親近感を感じる。だが、それはヨウムさんも感じ取っていたらしい。

「なんか、二人って似てるよな。雰囲気とか」
『そう？』

　思わぬところで息があって、目を見合わす時機も一緒になり、なぜだか可笑しく思えて、どちらともなく微笑んだ。

「そんなものかしら？」
「ヨウムさんの勘は、的を得ている時が多いから、そういう事にしましょうか」
「ええ。そうね」


　夜になり、打ち解けたミュウランに特殊な発声法で話しかける事により、彼女にだけあたしの声が聴こえる寸法だ。

「ミュウラン。知り合って間もないのにこんな事を尋ねるのは失礼だけど、どうしても確かめたいの。もしかして、誰かに行動を縛られてたりする？」
「っ!?」

　目を見開き、一気に警戒してきた彼女に向けて、敵対心が無い事を表すために、ひらりと手を振る。

「嗚呼。やっぱり同類なんだ」
(同類…？ どうして判ったの？)

　小声で返答するあたり、図星と見た。彼女に合わせて、ささやき声で言葉を返す。

(今は、女の勘とでも言わせてちょうだい)
(…わかったわ)

　居酒屋に一足先に入店する彼女の華奢な背中を見て、先日の若様との下らない戯(たわむ)れを思い出した。

　この気持ちに気づいてはいけない。
　常に、鈍感でなくてはならない。
　自覚してしまえば、後戻りはできなくなる。
　仮に、恋心が芽生えてしまったら、あたしは――

「A。入らないの？」
「今行く」

　気丈夫な振りをしている心に亀裂が入らないでくれと願う自分は、間違っているのだろうか？

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