叶わない恋 《ベニマル》

第38話　冷酷な護衛 ページ40

「今日から俺達の国だ！」
「失せろ。賊は無用だ」

　言い終わらないうちに十人いる賊の一人の腕を斬り落とせば、すかさず悲鳴をあげた。恐怖で戦(おのの)いた輩が逃げ出すとこちらが困るため、纏(まと)めて糸で口と体を拘束する。

「意識がなくなるまで切り刻まれるのと、腕一本なくして帰るのと、どっちがいい？」

　だが、猿轡(さるぐつわ)をしているせいで、くぐもった声しか出ない。仕方なく指一本でそれを外してやれば、賊が口を開く。

「そんなの、ただの脅しだろ!?」

　別の輩二人の四肢を糸で裁断し、断末魔が耳に響く。だが、それは自分の加虐心を煽(あお)る材料になるだけだ。

「い、嫌だ……。もう乗っ取らないから、許してくれ」
「その言葉を、簡単に信じるとでも？」

　最初に腕を斬った賊が懇願するが、その者など眼中に無い。血液で赤く染まっていく糸を眺めて、三人の耳を裂く。

「や、やめろ！ このクソアマ！」
「やはり、教育が足りないようだな」

　残り四人は、喉を掻(か)き斬る。呼吸する度(たび)にひゅうひゅうと音がするが、自業自得だ。

「誰が一番先に死ぬか。楽しみにしていよう」

　再び猿轡を施した後ににこりと嗤(わら)って、影移動で森の中腹に放置した。それから三十分経って、魔都周辺の警備に当たっているソーカから、思念伝達が脳内に届く。

《森の中腹にて、賊を発見。まだ放置されますか？》
《いや。今行くよ》

　フルポーションを持って、彼らの前に姿を現す。まだ昼間で、獣道ではない場所だが、木漏れ日は差している。

「死んだ奴(やつ)は？」

　全員が首を横に振ったのを確認し、重傷者から順に猿轡を取り、小瓶に入った完全回復薬を飲ませていった。

「これに懲りたら、もう悪行をするな。真っ当に生きろ。誓える者から解放してやる」

　生死をさ迷った賊は、口々に他意の無い誓いの言葉を述べ、自分の前から走り去った。


　不思議な事に、あたしが今まで門番をして追い払った賊達は、全員が半年以内に更生し、わざわざ魔都まで挨拶をしに来るようになる。

「Aさん。俺、真っ当な職に就いたので、お祝いに虐(いじ)めて下さい！」
「は？」

　中には、虐められる事に悦を感じるようになった変態。否。変わり者もいるが、概(おおむ)ね健全な者が多い。
　しかし、そういう輩は関わると面倒なので、軽く適当にあしらって帰ってもらうのも、仕事のひとつだ。

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