第29話 条件 ページ31
「昨日は、情けない所を見せて本当にすまなかった」
身内とフォビオに会った翌朝。
稽古前の出来事だった。
出会い頭に顔を合わせるなり、挨拶より先に若様が頭を下げて来たため、一瞬混乱したのは言うまでもない。
「若様、顔を上げて下さい。貴方に謝罪される事をした覚えはございませんし、ただ単に、虫の居所が悪かったのでしょう?」
「…そうだ」
落ちこんだ様子で、私服姿であたしの隣を歩きながら溜め息をつかれる。しっかり舌打ちも聞こえたが、聞こえない振りをして、話題を変えた。
「順序が逆になりましたが、おはようございます。若様」
「あ、嗚呼。おはよう。A」
こうして朝稽古へ向かう道中で挨拶を交わし、他愛のない会話で笑いあうのが、知らぬ間に日課になっている。
あたしは、この距離感が心地よかった。
後から思えば、ある事件が起こるまで、自分の欲を無意識に抑えた上に、無頓着な振りをしていたのかもしれない。
朝食後に散策し、若様がフォビオと街で鉢合わせすると、まるで敵を前にしたように
「お二人共。何かあったのですか?」
「大丈夫だ。A」
「Aが気にする事じゃない」
以前、リムル様から聞かされた話だが、若様が
しかし、次のフォビオの言葉で思考が一時停止する。
「Aは、好きな男とかいるのか?」
「…ん?」
「一人の男性として、気になる相手の事だ」
「あー…。なるほど」
若様も助け船を寄越したつもりだろうが、あいにく色恋沙汰には
「今のところ、そんなふうに想う殿方はおりません。ですが、もし交際するとなれば、いくつか条件があります」
すると、二人の顔つきが
「聞きたいですか?」
『もちろんだ』
なぜ知りたいのか疑問だが、彼らの間に挟まれながら、素直に答えていく。
「どんな理由であっても暴力を振るわず、人を下に見ず、高圧的な態度を示さない方。あと、男色じゃない方ですね」
彼らが、この理由を知るのはずっと先の事だ。
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竜胆(プロフ) - 200回の投票を頂き、ありがとうございます。 (2023年3月8日 19時) (レス) id: 2d2249a2d0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - お気に入りに入れて下さる方が、再び400人に到達! ありがとうございます。更新できるように頑張ります。 (2020年2月2日 21時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 瑠亜@影月さん» 瑠亜@影月さん、コメントと応援ありがとうございます。心変わりしてしまうほどとは(笑)もう話が一杯になったので、ただいま続編に向けて考案中です。更新できるよう頑張ります! (2019年5月13日 1時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
瑠亜@影月 - 私はソウエイが推しキャラだったんですが、若様に心変わりしてしまいそうです(笑)これも竜胆さんの文才の力ですね!これからも更新頑張ってください! (2019年5月12日 21時) (レス) id: 9b9cc1c6b7 (このIDを非表示/違反報告)
竜胆(プロフ) - 紫癸さん» 紫癸さん、コメントと応援ありがとうございます。お褒めの言葉も重ねて感謝します。ただいまコミック版最新話の展開を待機している状態なので、もうしばらくお待ち下さい。必ず更新します。 (2019年4月11日 22時) (レス) id: ce36bc58b0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竜胆 | 作成日時:2018年12月1日 1時