叶わない恋 《ベニマル》

第24話　一か八か ページ26

「は？ ふ、フルポーション……？」
「嗚呼。この街じゃ当然だ。開発と完成にこぎ着けたのは――」

　そこで食堂の扉が開き、ガビルが憔悴しているベスターに肩を貸す状態で入ってくる。

「Aさん…。申し訳ないが、いつものを…」
「了解。しばしお待ちを。ガビルさんは定食ですね」
「嗚呼。よろしく頼む」
「今、食卓に突っ伏したアイツだ。研究熱心なのは良いんだが、それで食事を疎(おろそ)かにしちまう同胞よ」

　呆れた口調で人を指差すカイジンだが、リアムは開いた口が塞(ふさ)がらない。屈強な男が説明している間に、Aに注文を済ませ、椅子に腰を落ち着ける。

「僕、飲みます。それで完治したら、ユーラザニアにも良い宣伝材料になるでしょう？ お願いします。もう他の人に迷惑かけたくないんだ」
「よし。決定だな」

　リアムはその言葉を聞いて咽(むせ)び泣き、ノワールは満面の笑みを浮かべて喜んだ。

『ありがとうございます…！』

　カイジンが彼の背を叩いて乱暴に慰め、少年の頭をこれまた乱暴に撫でる。男７人が食卓を挟んで、他愛もない話で談笑していくうちに、良い香りが鼻孔を刺激し始め、徐々に空腹感が増していった。
　給仕係のホブゴブリナ達を筆頭に、それぞれのお盆に乗せられた料理が運ばれてくる。

「お待たせ致しました。ベスターさんは、採れたての茸(きのこ)を使った粥(かゆ)。若様とガビルさんは、日替わり定食を。リアム殿とノワール君には、焼き菓子をご用意しました」
「まともなご飯にありつけるとは…。…ああ。幸せだな」
「いや。貴方の場合は、ちゃんと食事を摂った上で、日光にも当たって下さい。いくら茸類があるといっても、身体に必要な栄養が足りないんですからね。倒れられたら、リムル様に迷惑がかかります」
「はい。Aさんの仰る通りです」
「よろしい」

　Aよりベスターのほうが年上のはずなのに、自分に対する説教に頭が下がる一方だった。


　肝心の『何処(どこ)で』飲ませるかが決定していなかったため、食後早々、大の男達が食堂で頭を抱えている中、Aが意見具申する。

「提案ですが、女子会ならぬ男子会を開催されてはいかがでしょう？ 種族の壁を越えて、大人数で集っても周囲は勘繰りませんし、今の魔都だからできる事です。腹を割って話すのが本来の目的ですが、今回を機に考えられては？」

　その発想は無く、俺を含めた野郎共は、口々に彼女を賞賛した。

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